西尾幹二(評論家)


 明治日本の産業革命遺産の世界文化遺産登録問題における韓国の驚くべき裏切りにより、改めて、かの民族がいかに信頼性のおけない民族であるかを、日本国民は広く認識した。

 六月二十二日、韓国の尹炳世外相が日本を訪れ、岸田外相と会談したあと、尹外相は「両国が申請した遺産の登録に向けて一緒に協力していくことで意見が一致した」(朝日新聞六月二十二日付)と語った。

 また、「韓国も百済の歴史遺産地区について世界遺産への登録を目指している。尹氏は『このような良い協力事例を通じて、今後、他の問題にも好循環ができるよう期待している』とも述べた」(同)。

 こうした調整の合意は日本人に明るいニュースとして伝えられ、世界遺産登録へ向け、関係者もメディアも展望が開けたと見た。

 この時、私は偶然にも拓殖大学教授の呉善花氏との共著『日韓悲劇の深層』(十月刊行)の出版のため彼女と対談を行っており、その席で呉氏は開口一番、「今度の合意はとんでもない日本側の譲歩です。必ず韓国の騙し打ちに遭います」と述べた。

 六月二十九日付産経新聞「正論」欄において、筑波大学教授の古田博司氏もまた呉氏同様に、日本は韓国に必ず騙されると指摘し、次のように明確に予言している。

〈「今回の世界遺産申請抱き合わせでもわかるように、韓国の自律行動は、ゴネ、イチャモン、タカリという至極低劣な『民族の最終独立兵器』によって全うされるのが常」「この点に関しての彼らの『恥』意識は存在しない」「むしろ今後、さまざまな要求を抱き合わせてくる可能性がある」〉

 結果は二人の予言どおりとなった。

 日本国民は、これまで北朝鮮には散々裏切られ続けてきた。北朝鮮による拉致被害者らの再調査が十年ぶりに開始されたのが昨年七月四日。この時、最高指導機関の国防委員会が直轄する国家安全保衛部幹部が再調査の指揮を執るとして外務省も日本政府も期待し、日本政府は北朝鮮への独自制裁の一部を解除した。

 ところが、調査開始から一年が経過しても北朝鮮からは知らん顔をされ、「まだ調査の初期段階だから調査結果報告は遅れる」などと足元を見透かされた不誠実な対応を取られ続けている。にもかかわらず、「『政府は交渉窓口が閉ざされることを懸念し、制裁強化を判断するのはまだ早い』(官邸幹部)」(朝日新聞七月四日付)として今日に至っている。

 このような北朝鮮の度重なる卑劣なやり口に対して、忍耐の限界を超えるほどの対応をさせられてきたわが国だが、南朝鮮すなわち韓国に対しては、日本と同じ議会制民主主義国家と見做し、共産主義独裁国家の北朝鮮や中国とは異なる対応をとり続けてきた。

 しかし、今回の世界遺産登録を巡る韓国の裏切り行為を目の当たりにして、「結局、南朝鮮も北朝鮮と同じ朝鮮人に変わりはない」という呆れ返るほどの、もはや言葉のない絶望にも似た状況に立ち至った。

国交断絶を望む強い声

 土壇場になって合意を踏みにじった韓国は、強制労働を認めるべきだとして、委員会声明のなかに「force  labor」(強制労働)というナチスの強制収容所に用いられた、世界でもこの意味が通用する概念を盛り込むよう求めてきた。そのため協議に時間を取られ、登録決定が一日ずれ込んだのは周知のとおりだ。

 結果は、日本が合意破棄を迫り、韓国の発言を修正させて「forced to work」との表現が採用された。

「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録が決定し、スピーチする
韓国の趙兌烈外務第2次官(手前から2人目)=2015年7月5日、
ドイツ・ボン(共同)
 数日後の報道で、六月の外相会談において、すでに委員会での声明を「forced to work」とすることが尹外相の提案で両国が合意していた内容であることが明らかとなった(産経新聞七月十一日付)。

 岸田外相は、「働かせた」(forced to work)という表現は強制労働を意味するものではないと釈明している。しかし、欧米人は意思の自由を人格の自由の根幹と見做しており、「force」という単語が含まれている限り、形容詞的に使われようと動詞的に使われようと、労働者の自由意思を踏みにじった意味であることはなにびとも否定することはできない。すなわち、強制労働という意味に読まれることは避けられない。

 それも六月の外相会談において、すでに「forced to work」で合意していたというのだから驚きだ。要するに外務省には、はじめから世界遺産登録の実現を優先させ、日本の国益と名誉を守るという必死の思い、「強制」という言質を取られまいとする気概に欠けていた。その決定には当然、官邸の意向も働いていたと考えるのが自然であり、官邸の責任も重大である。こんなことを初めから認めてしまっていたのは日本外交の取り返しのつかない大失態で、第二の河野談話、日本外交の大罪とも言える。

 実はわが国の国内には、世界遺産登録の発表前から、この際、世界遺産登録が実現せず、日本人の韓国に対する意識が一段と厳しくなるほうが良いのではないか、といった意見さえ見られていた。

 世界遺産登録阻止となれば韓国はお祭り騒ぎだろうが、その後の韓国経済危機、平昌オリンピック危機で日本政府を当てにすることはまったくできなくなり、金輪際一切の関係を断ち、国交断絶に近い状態にさえなることを望む強い声も日本国内にある。言葉にはしないが、そう思っている人は少なくないに違いない。

 登録決定後も、日本外交の完全なる敗北であり、深い失望感を表す声が私の周りからも聞こえてくるし、インターネット上にはそうした書き込みが多数見られる。