久保田るり子(産経新聞編集局編集委員)


 韓国にとって日本はどういう存在なのか。10年前、小泉純一郎首相の靖国参拝に反発した盧武鉉政権が「新対日ドクトリン」という物々しい外交原則を発表したことがあるが、そこにはこうある。「日韓関係は日本の謝罪と反省が基礎である」

 韓国は憲法の前文で「悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓国民は、3・1独立運動(1919年、朝鮮全土で人々が決起し運動家が独立を宣言)により建設された大韓民国臨時政府の法統を継承する」と明記している。この一文には、日本統治を歴史から抹殺したいという想いが詰まっている。少なくとも日本時代は日本に不法、違法に占拠されていたのであって、『我々はこれを認めない!』とする立場が示されている。

「臨時政府」(1919-45年)は、李承晩や呂運亨ら独立活動家によって上海(のちに重慶)に設立された。だが連合国、枢軸国の双方から認められず、米軍に解体された。しかし韓国は、いまも「幻の政府」の正統性を国史の根幹としている。世界史的からみると、虚構を生きていることになる。

 だから、日本統治は「不法」で当時を「日帝強占期」と呼ぶ。力によって強制的に占領されたと位置付ける歴史観のみが韓国にとって「正しい歴史認識」なのである。だから、日本にはいつまでも、何度でも謝ってもらわなくてはならないのだ。朴槿恵大統領の「加害者と被害者の立場は1000年過ぎても変わらない」という言葉の真意である。

 しかし、日韓併合の合法・不法論争は、実はとっくに学術的な決着がついている。

 不法論を国際認知させようと考えた韓国は、2001年に「韓国併合再検討国際会議」という国際会議を主催した。日韓のほか欧米からも歴史学者らが参加しハワイ、東京、ワシントンで開かれた会議で、韓国側は併合の不法性を全面展開した。

 彼らが特に根拠としたのが「第二次日韓協約」(1905年)での強制性で、不法な強制(脅迫)により外交権を奪っての日韓併合は「不法であり無効」との持論を主張した。しかし日本側は皇帝(高宗)の日記などを分析して高宗が協約に賛成していたことを実証した。また英国の学者などから、当時、米英など列強が日韓併合を認めた以上「違法・無効論」は成り立たないとの見解が相次いで、韓国はこれに反論はできず論争には終止符が打たれた。

 これで怯む韓国ではない。その後、今度は「反省と謝罪」の要求の矛先を日韓基本条約(1965年)に変え、これにチャレンジ(挑戦)を開始した。キーワードは「人権」である。女性の人権(慰安婦問題)、個人の賠償権(徴用工問題)である。
6月22日、ソウルの日本大使館前で抗議行動をする徴用工の遺族ら(共同)
 盧武鉉政権が慰安婦問題で「(基本条約の)請求権協定で解決したとみることはできず、日本の法的責任は残っている」との初めての政府見解を出した。その後、慰安婦問題は2011年、憲法裁判所が「慰安婦が(日本から)賠償請求を得られるように(韓国)政府が行動しないのは憲法違反」との賠償請求権判決を出した。徴用工問題でも、韓国大法院(最高裁に相当)が2012年、「個人の請求権は消滅していない」と判断し、これに依拠して日本企業がいまも続々と訴えられている。

 併合不法論も請求権の蒸し返しも、国家のアイデンティティーとは別に、もうひとつの政治性を帯びている。つまり併合したのは現在の韓国だけではなく、北方の北朝鮮があり、未来の日朝国交正常化交渉の重要なテーマとなるからだ。韓国の併合不法論者や慰安婦・徴用工支援勢力の核心部には親北派が見え隠れしている。

 もちろん韓国では、「安倍談話は村山談話、小泉談話から一歩も後退してはならない」「日本は植民地侵略や慰安婦動員に対する責任を認める謝罪を」とする声は保守、進歩を問わずにあるから、「過去」をめぐる日韓論争のなかに北朝鮮勢力の思惑を見極めるのには、それなりの眼力がいる。『和解のためにはまず侵略を認め、植民地支配に反省と謝罪を』とする日本の贖罪派の、何と平和で情緒的であることか。