多田実(同志社大学政策学部教授)

 ことしのドラフト会議を見ていたら、今後の阪神に何か劇的な変化が起こりそうな予感がしたのは、金本新監督の個性や人柄がそうさせているからなのだろうか。

 週末には、吉本新喜劇をテレビで見るのが「ルーティーン」だった(笑)大阪で生まれ育ち、当然のことのように阪神ファンになり早や数十年。阪神の魅力を語るとき、お笑い文化が浸透しているからなのか、エンタメ(エンターテインメント的)要素の存在を重要視してしまう。

 個人的に、これまで最も強く印象に残っている選手はカークランド氏(1968~1973年)。このたび、二軍監督就任が決まった掛布雅之氏の背番号「31」をつけていた、強力外国人選手だ。彼は、いつも爪楊枝をくわえてバッターボックスに立っていた。まるで野球漫画の登場人物のようなエンタメ要素溢れる選手だった。エンタメ要素といえば、お笑いタレント顔負けの話術をもつ加藤博一氏(1976~1982年)、ルックスもプレーもイケメンだった新庄剛志氏(1990~2000年)の二人もすぐに思いつく。当時の阪神は、Bクラスに低迷し続け「暗黒時代」と呼ばれたこともあったが、それでもファンは応援したい気持ちが強くあったように思われる。それは「バカな子ほどかわいい」に似たような心理なのか、義理人情を重んじる「浪花節」のような感覚なのか? いずれにしても、在阪球団っぽいエンタメ要素がそこにあったことは間違いない。

 その後は、広島から2003年に阪神へ移籍した金本知憲氏の右に出る者はいないだろう。ヒーローインタビュー時における彼のトークには、普通のプロ野球選手にはない独特の世界観があり、痛快で愉快でいつも楽しみだった。今回、監督として初めて臨んだドラフト会議でも、やはり彼は“持って”いた。あの独特の“笑い”がまた見られた。現役時代、ストイックなまでに筋トレなどで身体を鍛えてプレーする一方、お茶目でイタズラっ子みたいなエンタメ性を発揮していたからこそ、「アニキ」の愛称で多くのファンから親しまれたのだろう。今後の阪神において、是非とも金本監督の眼鏡にかなう人材が発掘され、新しいスター選手に育つことを期待している。

 歴代の監督に目を向けると、最もエンタメ要素が強かったのは、星野仙一氏(2002~2003年)で異論は出ないだろう。星野監督は、試合のない日にはビジネス書を愛読していたと何かの記事で読んだことがある。その先入観からなのか、星野監督のインタビューでのトークにはビジネスセンスも感じられたように記憶している。お客さんを喜ばせる「ツボ」を心得ていたような。当時の経営学では、「CS(顧客満足)」がしきりに叫ばれていた(今なら「クライマックスシリーズ」を連想するかもしれないが…笑)。星野監督の受け応えには、常にファンの心に満足感をもたらす高い「CS」があった。事実、彼に心を「ワシ掴み」された女性ファンが多かったことを覚えている。当時の阪神には、確実に「星野監督<ブランド>」が存在していた。

FAで広島から阪神に入団した金本(中央)と握手する野崎球団社長(左)、星野仙一監督=2002年11月22日、大阪市内のホテル(撮影・榎本雅弘)
 2002年まで広島東洋カープの4番バッターだった金本選手が阪神に移籍したのは、当時、阪神の監督だった星野氏の「口説き文句」が決め手になったとの報道があった。ブランド力とビジネスセンスを持ち合わせる星野監督の交渉術が冴えていたエピソードといえる。強力な<ブランド>が構築されると、そのブランドに忠誠を誓う「ロイヤルカスタマー」と呼ばれる特別な顧客の出現が期待される。通常の平均的な野球ファンとは一線を画す熱狂的なファンになるのだ。星野監督と種類は異なるかもしれないが、ファンに愛されるエンタメ要素を確実に持っている金本氏。来シーズンの阪神にも「金本監督<ブランド>」が形成されることが大いに期待でき、監督インタビューなどでのエンタメなパフォーマンスが今からとても楽しみだ。

 さて、阪神タイガース再建を託された金本新監督。阪神の観客動員数は、たしかに統計データを見ると10年前と比べれば減少傾向にあることは事実だ。また、阪神に限らず、プロ野球全体に昔ほどの勢いが感じられなくなってきているとよく耳にする。テレビのプロ野球中継は、一昔前のような高視聴率が取れなくなっているらしい。このことは、プロ野球に限らず、「さとり世代」と称される若者の消費行動全般(テレビ離れ、クルマ離れ、本離れ等々)において深刻な問題とする向きもある。本当にそうなのだろうか。

 ここ数年の「カープ女子」ブームが契機となり、新たなムーブメントが起こっていることも事実だ。昨今の広告コミュニケーションやマーケティングにおいても、ファン(消費者)と良い関係を構築する「エンゲージメント」が重要視されていて、そのために顧客の心のツボ「消費者インサイト」を刺激することが多種多様な形で工夫されている。勝てなくなると監督批判をよく行うことで有名な(?)阪神ファンが、歴代監督で批判することが最も少なかったように思われる星野監督時代。これは、ファンと監督との間に、良い関係性(エンゲージメント)が構築できていたからではないだろうか。そんな星野氏に見込まれて口説かれたのが金本監督。来季の阪神タイガースを期待せずにはいられない。

 現在では「歩きスマホは危ないのでやめましょう」と警告されるほど、日常的なものになったインターネット。だが、1990年代後半頃は、企業からの一方的な情報発信が行われるだけのマイナーなメディアだった。それが変化したのは、2000年代中頃以降、ユーザーからの情報発信が容易に投稿できるような仕組み(ブログ、SNS、口コミサイトなど)が普及したからであり、この劇的な変化は「Web2.0」と呼ばれる。ユーザーとインターネットというサービスとの間に良い関係性が生まれたのである。これもある種の「エンゲージメント」といえるだろう。それ以降、劇的な変化が起こったときに「2.0」という表現が使われるようになり、「次世代」を期待する広告などにも用いられるようになった。新監督のエンタメ性だけに頼るのではなく、ファンとの良い関係性がさらに強化されるような仕組みや仕掛けが、新たに球団経営者側からも提案され、何らかのブームが起こるような「阪神タイガース2.0」になることを強く願っている。その「インフラ(基盤)」は、新監督が有するエンタメ性というモノで、既に充分整っているのだから。