潮匡人(評論家、元3等空佐)


志願者は減っていない

 平和安全法制(いわゆる安保法制)を巡り、繰り返し「徴兵制への不安」が語られた。護憲派メディアが、テレビや新聞で繰り返し、そう「報道」した(拙著『護憲派メディアの何が気持ち悪いのか』PHP新書)。国会でも、民主や維新、共産、社民らが「徴兵制」を語った。反語表現を含めれば、自民や公明も例外でない。

 そのたび自衛官は不快な思いを強いられてきた。われわれOBも例外でない。大多数の自衛官とOBのプライドは深く傷ついた。

 この国で徴兵制など起こり得ない。理由は単純明快。自衛官が退職しないから。話はそれに尽きる。自衛官が辞めない以上、そもそも徴兵する必要がない。

横浜市で開かれた護憲派の集会=5月3日午後
 ところが護憲派はそう考えない。今もこう「不安」を煽る。

「戦争法案で自衛隊員のリスクが増す → 隊員が退職する → 実員が足りなくなる → 徴兵制になる」

 すべて間違いである。平和安全法制下、最もリスクが増すのは国連PKO参加だが、世界で誰もその「平和維持活動」を「戦争」とは呼ばない。例外は日本の護憲派だけ。たとえリスクが増しても自衛官は退職しない。全員「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる」と宣誓している。そこが他の職業とは違う。そのプライドを大なり小なり胸に秘めている。

 初めてのカンボディアPKO派遣がそうだった。みな「退職」どころか「派遣」を希望した。当時現役だった私を含め希望者が殺到した。その後の民主党政権が、紛争地の南スーダンへ派遣した際も、現場は粛々と政治の決定に服した。官邸から「暴力装置」と呼ばれ、防衛副大臣から言論統制を受けたにもかかわらず。

 それが今度だけは別なのか。今度こそ自衛官は退職するというなら、その論拠を示せ。それができない以上、護憲派が煽る不安は捏造である。自作自演の杞憂に過ぎない。

 一般に軍隊への徴兵制は志願制を維持できない場合に導入される。他方、日本は志願制の自衛隊。ゆえに今後もし徴兵制の必要が生じるなら、それは自衛官を志願する学生や生徒が激減する事態に限られる。誰も未来を正確に予測することはできないから、未来永劫その可能性がないとは断言できない。

 だが、こうは言える。来年はそうならない。再来年も、たぶんそれ以降も当面は大丈夫であろう。論拠は最新すなわち昨年度(つまり「集団的自衛権容認」の閣議決定を受けて以降)の自衛官の応募状況(最新版「防衛白書」)。防衛大学校(前期一般・文系)の倍率は93・8倍。文系女子に限れば、なんと158・1倍。防大が女子高生にとって高嶺の花であるのと同様、一般大学生にとっても入隊の門は狭い。たとえば空自一般幹部候補生の倍率は46・4倍。ちなみに高卒コースの一般曹候補生は7倍。自衛官候補生も3・8倍である。どのコースも不合格者のほうが3倍以上も多い。徴兵制の気配など微塵もない。護憲派の報道はすべて虚報や捏造である。