それは「ゴスロリ」ではない


 日本文化を海外へ売り込もうとの動きが高まっている。2010年には、経済産業省が「クールジャパン」という言葉を打ち出し、政府や大企業が旗振り役となって、日本文化を発信するイベントが開かれるようになった。しかし、日本の何を「クール」とするのか、ということは政府もまだわかっておらず、とりあえず「ハイカルチャーからサブカルチャーまで、日本の文化は何でもクールだ」ということになっている。

 この、やや大雑把なクールジャパン政策の象徴が、「ゴシック・ロリィタファッション」への誤解である。2013年、パリで開かれた、日本の「カワイイ文化」を紹介するイベント「Tokyo Crazy Kawaii Paris」において、稲田朋美クールジャパン戦略担当大臣が「自称」ゴスロリ姿で記者会見したのは記憶に新しい(「稲田朋美 クールジャパン ゴスロリ」などで検索すれば、当時の画像がたくさん出てくる)。ゴシック文化、そしてロリィタ文化を愛する筆者からすれば、あれはゴスロリでも何でもなかった。おまけに稲田氏は同年、うっかり「ゴスロリは十二単がルーツと聞いている」なんてトンチンカンな発言までしてしまったものだから、ファッション愛好家のみならず、多くの国民から「それは違うだろ!」「クールジャパン戦略担当なのに、日本のファッションをまるでわかっていない」と、総ツッコミを受けた。が、稲田氏を責めても仕方がない。それほどに日本のゴシック・ロリィタファッションのルーツは奥深く、複雑だからだ。

ゴシックとロリータの違い


ゴスロリファッションを研究する上田安子服飾専門学校の学生ら=2012年11月26日、大阪市北区(竹川禎一郎撮影)
 一口に「ゴスロリ」といっても、「ゴシック=ゴス」と「ロリィタ=ロリ」は全くの別物である。まず「ゴス」から説明しよう。ゴス文化のルーツは、中世ヨーロッパの「ゴシック建築」だ。尖った塔と、崇高で威圧的な様式美。そのゴシック建築が廃墟と化したものを、18世紀のイギリス貴族たちが「再発見」し、小説の舞台にしたのが始まりだ。しかしながら、現代の「ゴス文化」は、文学やパンクス、ヴィジュアル系バンドの音楽性、ストリートファッションなど、ゴシック建築がどうのという次元をはるかに超えて広がっている。統一されたルールがあるわけではない。ただただ、死の匂いと退廃性を感じさせ、おどろおどろしいが魅力的なサブカルチャーの総称となっている[1]。

 一方のロリィタ文化については、乙女趣味や過度なロマンチシズム、ロココ調やヴィクトリア時代への憧れ、人形への偏愛などが特徴である。ウラジミール・ナボコフの少女性愛趣味小説『ロリータ』(1955)が由来ともいわれるが、フリルや少女性にあふれた「ロリィタファッション」を好む若者が、必ずしもナボコフを読んでいるわけではない。ロリィタもまた、歴史的背景うんぬんというよりは、ストリートファッションの中から徐々に生まれた精神性の総称だ。西洋文化を好むかと思えば、大正ロマンや『不思議の国のアリス』(ディズニー版ではない、ジョン・テニエルの挿絵版である)、キティちゃんへの憧憬もみせる。とにかく少女的で、退行的な趣味である。