荻原博子(経済ジャーナリスト)


 10月1日、NHKの籾井勝人会長が、受信料の徴収にマイナンバーの活用を検討する方針を示しました。この発言を聞いて、正直、驚くと同時に、マスコミの一員として、これからの日本がどうなっていくのかという得体の知れない怖さを感じました。

 それは、NHKという、日本国民に信頼されている籾井会長率いる巨大マスコミが、この先、どこを目指し、どこに行こうとしているのかわからないことへの恐怖です。

 なぜそう思うのかといえば、マイナンバーを活用して受信料の徴収をはじめるということは、とりもなおさずNHKが政府と一体化するということだからです。

 来年1月にスタートするマイナンバーは、社会保障と税と災害の3つの用途を設定してスタートします。社会保障では、年金などの資格取得の確認などに関する手続きの簡素化や未払いに対応していきます。税では、税務当局に提出する確定申告書などの届け出書の簡素化や未払い、脱税などに対応していきます。災害では、災害社生活債券支援金の給付などの処理に使われることになっています。

 さらに、将来的にはこのマイナンバーに、銀行や証券会社をひも付けされ、個人の預金口座や投資信託口座、証券口座、積立型・年金型保険、死亡保険などの資産情報も政府が把握できるようにしていきます。ただし、金融機関とのひも付けは、まだ構想段階であり具体化はされていません。

 では、このマイナンバーを、NHKの受信料の徴収に使うというのは、何を意味するのでしょうか。

 NHKは、スポンサー料で成り立つ民間放送とは一線を画し、視聴者の受信料で成り立つ放送局としてのスタンスを保ってきました。NHKは、よく国営放送と言われますが、これは間違いで、開局以来、政府のプロバガンダ専用放送局ではなく、公平中立を旨とした放送局というスタンスを維持してきました。そこで番組制作にかかわる人たちも、マスコミとしての矜持を持って、政府寄りではなく、常に公正な立場で、社会問題や政治問題などの番組化に取り組んできたはずです。

 確かに、放送免許や受信料の許諾については国が握ってはいますが、放送の許諾権については民間放送も政府が握っているので、これで国営放送だということにはならないでしょう。また、NHKの財務内容を見ると、税金で運営されているのではなく事業収入の大部分を、視聴者からの受信料でまかなっています。そういう意味では、NHKとは、政府とは一線を画した報道のできる、日本を代表する放送局として、長年、多くの人たちから愛されてきました。

消費税再増税先送り、衆院解散を表明する安倍首相の会見映像が流れた水戸市内の家電量販店=2014年11月18日夜(桐原正道撮影)
 ところがそのNHKが、政府にしか使えないはずのマイナンバーを使って、受信料を徴収することを検討しているというのです。しかも今のところ、社会保障にも税にも災害関連の手続きにも関係ありません。NHKの受信料の徴収などという用途はまったく考慮されていないのですから、もし、これを実現させるとなれば、公営放送としての中立性をかなぐり捨てて、政府の一員としての国営放送に大転換し、大本営発表に終始した戦前のNHKのような存在にならなければできないことです。そうなってはじめて、政府の一員としてNHKはマイナンバーを使って受信料を徴収できるのです。

 誤解してはいけないのは、確かにマイナンバー制度では、銀行や証券会社などが制度にひも付けされますが、これは、国が各自の持っている顧客情報を把握するために状況提供させる仕組みであって、銀行や証券会社が、国が管理しているマイナンバーを自分たちの営業に使えるということではありません。国の機関でない限り、国民の個人情報を使うことなどはいっさいできません。そうでなくては、ナンバーを把握される私たちの、国への信頼性が地に落ちてしまうからです。

 ですから、繰り返しになりますが、こうした中でNHKだけがマイナンバーを使うえるというのは、これまで中立性を守ってきたNHKが、それをかなぐり捨てて国と一体化し、政府のプロパガンダ放送局になるということを意味します。

 穿った見方かもしれませんが、籾井会長が、堂々とマイナンバーで受信料を徴収することを公に話せる背景には、すでに安倍内閣が、NHKを政府内に取り込む密約ができているのかもしれません。

 冒頭で書いた、私が感じた得体の知れない怖さの原因は、ここにあります。

 かつて、ナチスドイツでは、宣伝大臣にヨセフ・ゲッペルスを起用し、ナチス礼参の一大プロバガン組織をつくり、国民を啓蒙し、第二次世界大戦に突入していきました。日本でも、戦前はNHKが大本営発表を行い、「一億総火の玉」を煽り立て、太平洋戦争へと突入していきました。

 その戦争の悪夢が、再び繰り返されようとしているのかもしれません。

 同じ会見の中で、籾井会長は、NHKに対して「安倍チャンネル」という言葉は使わないでくださいと言っています。けれど、政府以外には使うことが許されないマイナンバーをNHKが使うということは、すなわちNHKの「安倍チャンネル」化の公式表明としか考えられないでしょう。