西岡力(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長)

 横田めぐみさんをはじめとする多くの日本人拉致被害者が今も北朝鮮の地で救出を待っている。私は曽我ひとみさんに「いつまで日本からの助けを待っていましたか」と質問したことがある。ひとみさんはこう答えた。

 「1990年、北朝鮮のTVで金丸という日本の大物政治家が訪朝して金日成と会ったことが報道されました。そのとき、日本の政治家がきてくれたのだから、日本から連れてこられた自分のことを議題にしてくれるだろうと内心期待しました。しかし、何も起きず、がっかりした。昼間は家事や育児で忙しく考える暇がないが、夜になると月や星を見て、同じ月や星を故郷佐渡の父や母、近所の人たちもみているだろう。いつになったら日本から助けが来るかと毎日考えていた」

「拉致問題を考える埼玉県民の集い」で、「ふるさと」を歌う拉致被害者の曽我ひとみさん(左から2人目)、家族会代表の飯塚繁雄氏(同3人目)=9月5日、埼玉県さいたま市(荻窪佳撮影)
 ひとみさんは佐渡の自宅近所で工作員らに襲われたときいっしょにいたお母さんについて、北朝鮮についてから日本にいると聞かされていたので、そう信じていたから、お母さんも佐渡で自分を待っていると思っていた。だから、曽我さんは2002年10月に帰国を果たしたとき、お母さんがいないことに大変強い衝撃をうけ、自宅のタンスからお母さんの着物を出して泣いていたという。

 当初、北朝鮮は拉致などでっち上げだと開き直っていた。平成9年に運動を始めた家族会と救う会は必死で拉致は事実だと訴えた。平成14年、訪朝した小泉純一郎首相に金正日が拉致をしたことを認め謝罪した。これは大きな勝利だった。しかし、ここでまた北朝鮮は二つのウソをついた。拉致したのは13人だけというウソと、そのうち5人は生存、8人は死亡というウソだった。

 現在政府は17人を拉致被害者として認定している。だから、それと比べても13人しか拉致していないという北朝鮮の主張がおかしいことはすぐ分かる。

 例えば、曽我ひとみさんのお母さんである曽我ミヨシさんについて北朝鮮は、ひとみさんを拉致したのは日本国内の下請け業者であり、ミヨシさんについては自分たちは知らないと説明した。しかし、曽我さん親子は自宅近所の道を二人で話しながら歩いているときに女1人、男3人の北朝鮮工作員に襲われた。ひとみさんの証言によると、親子を襲った工作員らは工作船に一緒に乗って北朝鮮に帰還した。その過程でどこか隠れ家に監禁されるなど、日本国内の「下請け業者」らしき存在の関与は一切ないという。

 その上、政府認定以外にも拉致されたこと確実な失踪者は存在する。安倍政権も「認定の有無にかかわらず全ての被害者を帰国させる」という方針を掲げている。