辺真一(『コリアレポート』編集長)


北朝鮮が腰砕けになった背景に中国の影

 今年は朝鮮半島にとっては例年になく熱い夏だった。8月4日に発生した軍事境界線での「地雷事件」が引き金となり、韓国と北朝鮮が一触即発の状態となったからだ。

 「地雷事件」で負傷者を出した韓国軍が報復措置として11年ぶりに拡声器による対北宣伝放送を再開したことに反発した北朝鮮軍が、砲弾を数発撃ち込んだあと 「(22日午後5時までに)放送を中止しなければ軍事行動を全面的に開始する」と警告、これに対して韓国軍が「挑発すれば、徹底的に報復する」と応酬したことで交戦必至とみられていた。ところが一転、北朝鮮は韓国に対話を呼び掛け、3日間のマラソン交渉の末、地雷事件で遺憾の意を表明し、矛を収めてしまった。誰が見ても、北朝鮮が腰砕けになった感は否めない。

 腰砕けの理由については、(1)最初から戦争をする気がなかった、(2)「挑発すれば、断固報復する」との韓国軍の威嚇に屈した、(3)準戦時態勢を発令した直後の8月22日から23日にかけて、北朝鮮が経済特区として開発に力を入れている咸鏡北道羅先市が豪雨と洪水に見舞われ、軍隊を復旧に回さざるをえなかった、等々が考えられるが、中国の抗日戦争勝利70周年式典出席のため訪中した朴槿惠大統領が習近平主席との会談で「中国が建設的な役割をしてくれたことに感謝する」と述べたことから中国の圧力説も取り沙汰されている

 北朝鮮の砲撃(8月20日)が朴大統領の式典参加表明直後にあったことから、朴大統領の訪中阻止のための仕業と中国が受け止めたとしても不思議ではない。中国共産党機関紙『人民日報』の姉妹紙『環球時報』(8月24日付)が「中国の抗日戦争勝利70周年の閲兵式に実質的に干渉するものであるならば無関心ではいられない。中国は強力に対応すべき」と言及したのは、そうした疑念が拭い去れないからだろう。

 中国がどのような「建設的な役割」をしたかについては伏せられたままだ。中国国防部の楊宇・軍報道官は「事実ではない」と否定しているものの香港紙『東方日報』(8月23日付)は「中国人民解放軍が北朝鮮との国境地帯に戦車を集結させ、北朝鮮を牽制した」と報じ、また一時は中国が北朝鮮への石油や軍事物資の販売を全面禁止したとの情報も流れた。

 唯一、公になったのは、中国の邱国洪・駐韓大使が21日に「対話で解決すべきだ」と自制を求めたことだ。これに対して北朝鮮外務省は、その日のうちに「われわれは数十年間自制するだけ自制してきた。いまになってどこの誰かのいかなる自制云々ももはや情勢管理に寄与しない」と不快感を露わにした。北朝鮮が説得に耳を貸さなかったことから、中国が何らかの圧力を加えた可能性も考えられる。

 実際に金正恩第1書記は、事態収拾後に招集した党中央軍事委員会拡大会議の場で「われわれには誰の支援も同情もなかった」と吐露していた。この発言からも中国が北朝鮮に与しなかったことは明らかだ。その不満として9月9日の建国記念日に寄せられたロシアのプーチン大統領の祝電を『労働新聞』の一面に載せながら、習主席の祝電は二面扱いにしてしまった。