佐々木伸(星槎大学客員教授)

 パリで先週末に発生したフランス史上未曾有の同時多発テロ。死者は15日現在で、129人に上り、重体の被害者も多い。オランド仏大統領は過激派組織「イスラム国」(IS)によるものと断定、ISも犯行声明を出したが、今回のテロは中東の地域戦争が「世界規模の戦争」に変貌したことを示しており、各国は対IS戦略の見直しが迫られる形になった。

ISのテロ作戦の転換


襲撃現場の一つになった「ル・カリヨン」レストラン(Getty Images)
襲撃現場の一つになった「ル・カリヨン」レストラン(Getty Images)
 今回の「パリの大虐殺」(米ワシントン・ポスト)の意味するところは明白だ。シリアとイラクという占領地を死守することに集中してきたISがテロ作戦を大きく転換し、地元から海外での大規模テロに踏み切ったことだろう。

  ISのライバルである国際テロ組織アルカイダは2001年の9・11米同時多発テロに象徴されるように、工作員を海外に送り込んで大規模なテロを実行するのが特徴的だった。これに対してISは、米主導の有志国連合を「イスラムの敵、十字軍」と非難しながらも、工作員を対外派遣することはせず、世界各国の支持者にテロを起こすよう呼び掛けるやり方にとどまってきた。

  1月の風刺新聞社シャルリエブドの襲撃とともに起きたユダヤ系スーパーの立てこもりや、チュニジアで発生した一連の観光客テロはこうした呼び掛けに呼応したテロであり、主役は地元で過激化した「ローン・ウルフ」(一匹狼)である。シリア・ラッカのIS本部がテロを計画し、実行犯も送り込むという組織的な手法は取られてこなかった。

  捜査を指揮するフランス検察当局のモランス検事によると、今回の実行犯は3班編成の7人。この7人が13日午後9時20分から2台の車を使って移動しながら次々に飲食店などで無差別銃撃し、独仏のサッカーが行われていた競技場で自爆テロを起こし、そして米ロックバンド「イーグルス・オブ・デスメタル」が出演していた劇場「バタクラン」を襲った。

  同検事によると、これまでに犯人2人の身元が判明。1人は仏情報当局の監視対象になっていたフランス国籍の過激派(29)。もう1人は競技場で自爆した男(25)で、シリアのパスポートを持っており、10月3日にギリシャのエーゲ海の島に入国した。

 この2人から推定できることは、実行犯7人が地元フランスとシリアからの派遣組の“混成部隊”であったことだ。ISが今回のテロを計画し、7人のうちの何人かを欧州に押し寄せているシリア難民に潜り込ませてパリに潜入させたと見るのが妥当だろう。

 ISが海外での大規模な組織テロを実行できる能力を示したものであり、今後も同様の事件を起こすことが可能だということだ。欧州に流入した難民は今年だけですでに80万人にも達しており、治安専門家の間では、ISの工作員が難民として紛れ込んでいることは早くから懸念されていた。

仏、近く報復攻撃も


 こうして見ると、10月31日にエジプト・シナイ半島で起きたロシア機旅客機の墜落が大方の見るようにIS分派の爆弾テロだとすれば、それは今回のテロの布石だったようにも思われる。ISが海外で大規模なテロを実行できることを先だって示したからだ。
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 それにしても、シャルリエブド事件が起きて以降、フランスはテロ警戒レベルを最高に上げ、若者らがISの拠点のあるシリアに向かうことを阻む法整備なども行って対策を取ってきた。しかし、こうした警備強化にもかかわらず、いとも簡単に破られたことに治安当局は大きな衝撃を受けている。

 欧州全体でイスラム教徒は1700万人に達し、フランスだけでも600万人(全人口の10%弱)もおり、治安当局は監視すべき人間が多すぎて対応仕切れていないのが実状だ。しかもこれまでは、一匹狼型のテロリストを監視する態勢を重視してきたが、今後は従来の組織型テロにも注意を払わなければならない。フランスだけではなく、米英なども対IS戦略の見直しは必至だ。

 今後の捜査の焦点はISがいつからテロを計画し、どのようにして標的を定め、実行部隊と連絡を取り合ったのか。武器の調達などの支援態勢をどう整えたのか。とりわけ米欧の情報機関にとって大きな謎の1つは、ISと実行部隊との連絡方法だ。

 オランド大統領は今回のテロを「戦争行為」と非難し、あらゆる手段を使って反撃すると報復を誓った。フランスの報復が単に、ISに対する空爆強化に終わるのか、それとも2013年に西アフリカのマリに軍事介入したように地上戦闘部隊を投入するのか、シリア情勢の緊張が高まってきた。