河合雅司・産経新聞論説委員

 結婚していない男女に生まれた婚外子の遺産相続分に差があるのは違憲とした最高裁の判断について、自民党の保守系議員などから「日本の伝統的家族制度を破壊する」との異論が相次いだ。自民党は家族制度を守る施策をまとめるというが、家族の在り方は少子化や社会保障制度とも直結する。よく実態を認識することが重要だ。

今も続く「妻は家庭」

 大半の国民が結婚し、「夫婦と子供2、3人。親と同居する場合もある」という世帯像は、「多産多死」から「少産少死」に向かった大正期以降にできたとされる。

 これをもって、「伝統的家族制度といっても、“伝統”は浅い」との意見が見られる。しかし、社会背景が大きく違う江戸や明治期などを持ち出し、比較するのは意味がないだろう。

 厚生労働省の「出生に関する統計」によれば、2009年の婚外子は2.1%で、先進各国の中で極端に低い。日本では同棲(どうせい)も定着していない。「法律婚で夫婦となり、子供を授かる」というのが、いまでも多くの日本人の“常識”であり、伝統的家族の議論はこれを出発点とするのが自然であろう。

 一方、最高裁は違憲判断に関して、婚姻や家族について「国民意識の多様化が大きく進んでいる」としたが、どこが変わったのだろうか。

 まず、伝統的家族の代表格である「夫は仕事、妻は家庭」だ。女性の社会進出で崩壊したとされる。1997年以降は共働き世帯が専業主婦世帯を上回っている。

 本当に仕事優先の女性が増え、「妻は家庭」が過去のものになったのならば、出産後も働き続ける妻が増えているはずだ。ところが、国立社会保障・人口問題研究所が2010年に行った「出生動向基本調査」を見る限り、そうした傾向は見られない。
 第1子出産前後に、「働き続ける」との選択をした妻は1980年代半ばからほぼ25%と横ばいで推移しており、むしろ、退職する割合のほうが年を追って増えている。

育児に価値見いだす

 多くの母親は、子供に手がかかるうちは育児に専念することを選んでおり、「夫は仕事、妻は家庭」というモデルは依然大勢を占めているのだ。共働き世帯が専業主婦世帯を上回っているのは、子育てが一段落した後にパートなどで働く人が少なくないからである。

 こうした数字に対しては、「家事や育児を女性に押しつけている」との見方が必ず登場するが、これは決めつけだ。内閣府の「女性のライフプランニング支援に関する調査」によれば、3歳以下の子供のいる女性の57.6%もが「働きたくない」と回答している。「残業があるフルタイム」を希望する人はわずか0.5%、「フルタイムだが残業なし」も6.2%にとどまる。多くの女性は幼少期の子供を育てる喜びを感じ、一緒に過ごす時間に価値を見いだしているのである。

形変えた3世代世帯

 もう一つ、伝統的家族モデルである3世代同居世帯はどうだろう。親が跡取りの子供夫婦と同居する「直系家族」から、一代限りの「夫婦家族」へと転換しつつあるともされる。

 事実、3世代同居世帯は少なくなった印象だが、親による子育て支援を見ると新たな関係が浮かび上がる。

 「出生動向基本調査」によれば、妻が働いている場合、最初の子供が3歳になるまでに夫妻の母親から支援を受けた割合は61.2%に上る。親子孫が一つ屋根の下に住むケースは減ったが、近距離に住む“新たな3世代世帯”として事実上続いているということだ。

 結婚直後は核家族を志向するが、結婚後10年ぐらいたつと、相続や老親の介護などの必要が生じ、親との同居に転じるケースが多いとのデータもある。

 こうした例を見る限り、日本の伝統的家族というのは、戦後の社会の激変などがあっても、強固に受け継がれてきたといえよう。

 むしろ、日本の家族の大きな変化は、晩婚や非婚という形で進行している。「家族のスタイル」以前に、新たな家族を築かない人の増大である。自らの選択で結婚しない人はともかく、問題なのは、低収入や雇用が不安定で結婚したくてもできない人が増えてきていることだ。

 政府の少子化対策は結婚問題には及び腰で、「仕事と子育ての両立支援」に力点を置いてきた。伝統的家族の“崩壊の危機”がどこにあるのか、見誤ってはならない。