高橋洋一(嘉悦大学教授)

もし財務省のいうとおりに再増税していたら


 2015年10月13日、政府・与党は消費税率10%への引き上げにともなう財務省の還付案(日本型軽減税率制度)を白紙撤回する方針を固めた。

 財務省の還付案は、「消費者に還付する金額の上限として1人当たり年4000円を目安に検討する」「申告は、マイナンバー(社会保障・税番号)制度で2017年1月から始まる個人用サイト『マイナポータル』で行なう」というものだった。

 「還付制度があるならいいか」と思って消費税率10%への引き上げに傾いた人もいたかもしれないが、この1件は「財務省の話を鵜呑みにしてはならない」という教訓を絵に描いたような出来事である。

 還付案の前提になった分析の1つは、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(平成27年7月22日経済財政諮問会議提出)で示された「消費税の影響は軽微」という認識である。さかのぼると2014年4月に消費税率を8%に引き上げた際、やはり財務省やエコノミストの多くが「消費税の影響は軽微」といっていた。同じく今回、2017年に消費税率を10%に引き上げたとしても還付措置があれば景気は維持できる、という。

 ところが実際は、2014年度はマイナス成長となり、ちっとも「影響は軽微」ではなかった。消費税8%への引き上げの影響を分析した2015年度『経済財政白書』を参考に筆者が試算をしたところ、「中長期の経済財政に関する試算」はまったくの間違いだということがわかった。
 図1に示したように、成長率に与える増税効果や駆け込み・反動の影響は大きい。このまま推移すれば、2017年度には再びマイナス成長になってしまう。そもそも2014年の8%への増税で甚大な影響が出ているのに、分析を変えないこと自体が問題である。

 「中長期の経済財政に関する試算」は、「経済・財政・社会保障を一体的にモデル化した内閣府の計量モデルを基礎にしている」もので「成長率、物価及び金利などはモデルから試算されるものであり、あらかじめ設定したものではない」(注釈より)という。

 だが、日銀がインフレ目標2%を掲げている現在において、「成長率、物価及び金利をあらかじめ設定したものではない」という前提は現実に即さない。ちなみに消費者物価は計算期間中、2%のままだ。

 この点に関しては、当の日銀総裁である黒田東彦氏までが消費税8%への引き上げ前に「消費税を増税しても影響はない」と発言してしまった。消費増税がもたらす負の影響を見誤ってしまった以上、力の及ぶ範囲でミスを挽回するしかない。したがって黒田総裁は当然、さらなる追加緩和を考えているはずである。

 普通に考えても消費増税の影響で需要が落ちているのだから、日銀の追加緩和または政府の景気対策(もしくはその両方)を打つことになる。黒田総裁はマーケットに手を読まれるのが嫌いな人だから、皆が「いまのところ黒田は景気に対して強気だから、日銀の追加緩和はない」と思っているタイミングを狙って緩和を打つことは十分に考えられる。

 財務省は「消費税の影響は軽微」といっていたが、もし仮に昨年、安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げを見送らず、財務省のいうとおりに消費税の再増税を決めていたら、いまごろ日本経済はどうなっていただろうか。

 2015年10月1日から消費税率が10%になるので、増税前の駆け込み需要とその後の反動減、消費の減少を2014年4月の8%への増税の影響(1―3月期4・5%増、4―6月期7・6%減、7―9月期1・1%減、10―12月期1・3%増)の3分の2と見積もると、今年10―12月期の実質GDPは「5~6%のマイナス成長」。財政再建どころではない。

 マイナス5~6%というのは、政権存続が危ぶまれるレベルである。安倍首相自身、2014年4月に消費税を8%に上げた際、初めて消費増税の負の効果の大きさに気付き、「2度は騙されない」という思いで昨年末に10%への増税を見送った経緯がある。

 また、最近の経済財政諮問会議で、財務省は総務省の家計調査の統計が当てにならないとかみついている。しかし、その反証として例に挙げたのが小売り統計であるが、これは中国の爆買いの影響を受けているのでご都合主義だ。