小黒一正(法政大学教授)

 急速な少子高齢化の進展に伴い、社会保障費が急増、財政赤字が恒常化しており、政府債務残高(対GDP)は200%を超える状況にある。

 このような状況の中、2017年4月の消費税率10%への引き上げについて、安倍首相は「リーマン・ショックのようなことが起こらない限り、(増税を)予定通り行っていくことに変わりない」旨の発言をしている。この発言は、以下3つの理由から正しい。

 第1は、日本財政に残された時間は15年程度の可能性が高いためである。米アトランタ連銀のアントン・ブラウン氏らの研究では、簡単な方法により、財政の持続可能性を分析している。具体的には、「実施シナリオ」(社会保障費の膨張を抑制せず、消費税率10%を維持するシナリオ)や「先送りシナリオ」(同様に、消費税率5%を維持するシナリオ)という前提の下、「政府債務残高(対GDP)を発散させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる期限を何年まで先延ばし可能か」という分析を行っている。

 この分析に基づく場合、「実施シナリオ」では2032年まで持続可能であるが、「先送りシナリオ」では2028年まで持続可能であるとの推計結果を導いている。

 ここで注意が必要なのは、財政を安定化させるため、消費税率を100%に引き上げることは政治的に明らかに不可能であるということである。また、例えば消費税率を30%に引き上げて、残りの消費税率70%分に相当する歳出削減を行うのも政治的に不可能だろう。

 もっとも、現在の消費税率は8%である。このため、ブラウン氏らの研究を利用すると、追加の改革を行わない限り、2028年と32年の中間である「2030年頃」を過ぎると、もはや財政は持続不可能に陥る可能性を示唆する。つまり、上記の分析が妥当な場合、日本財政に残された時間は15年程度ということになる。

 第2は、異次元緩和の限界である。政府債務残高(対GDP)が増加しても、国の債務の利払い費が10兆円程度で安定しているのは、異次元緩和により、日銀が大量の国債を購入し、長期金利が1%を切る低金利の水準に抑圧しているためである。いわゆる「金融抑圧」だが、この政策の継続は限界がある。理由は単純で、2014年10月31日の追加緩和により、日銀が長期国債の保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するように国債の買い入れを継続すると、近い将来、市場で取引される国債は底を突くためである。

 大雑把だが、財政赤字(新規の国債発行額)が約30兆円とする場合、日銀が異次元緩和で市場からネットで毎年約80兆円の国債を買い入れると、金融機関が保有する国債のうち50兆円(=80兆円-30兆円)を日銀が吸収してしまう。

 2015年時点で国債発行残高は約800兆円で、既に日銀は約300兆円の国債を保有しており、単純な計算で約10年間[(800-300)兆円÷50兆円]で日銀は全ての国債を保有し、国債市場が干上がってしまう。厳密には、銀行や保険・年金基金等は資金運用のために一定の国債を保有する必要があるため、筆者の推計では、2017年頃に異次元緩和は限界に達する可能性がある。