次に、日本郵便。ゆうちょ銀行もかんぽ生命も前途多難だが、日本郵便の郵便事業はそれ以上に厳しい状況に立たされている。そう遠くない将来に、郵便事業がジリ貧に陥るであろうことは、わざわざ説明するまでもなく、誰の目にも明らかだ。そもそも最近、手紙を書いた記憶があるだろうか。

 最後に、ゆうちょ銀行。この銀行は、普通の銀行の収益減となっている融資業務を行なっていない。ゆうちょ銀行のビジネスモデルは極めて明快で、個人などから集めてきた資金の大半を国債で運用するという単純な構造になっている。実際に、約178兆円の貯金残高に対し、国債を主にした有価証券での運用が約156兆円を占めている。

 だが、このビジネスモデルでは、そもそも大きな収益を期待することはできない。なぜなら国債は、あらゆる金融商品の中で最も金利が低い商品だからだ。言うまでもなく、日本の国債はリスクが低い。金融商品では、リスクが低ければ低いほど利回りも低くなる。

 ゆうちょ銀行では、将来収益が問題であることに加えて、大変な時限爆弾も抱えている。

 しばしば指摘されるのが、ゆうちょ銀行が保有する大量の国債について、金利上昇リスクがあるという点だ。たしかに、これから金利上昇すると、ゆうちょ銀行が保有している国債の評価損が発生する。ゆうちょ銀行の場合、上に述べたように貸出がない分だけ、他の金融機関より打撃が大きいかもしれない。

 ただし、ゆうちょ銀行の本当の問題は、資産サイドの国債評価損にとどまらない。実は、負債サイドにも、他の金融機関にない金利上昇リスクがある。

 ゆうちょ銀行のバランスシート(2015年3月末)をみると、貯金が177.7兆円あり、そのうち定額郵便貯金が83.6兆円と半分近くを占めている。

 この定額郵貯は、普通の金融機関にはない独特の商品である。預入の日から起算して6か月経過後は払戻し自由。3年までは6か月ごとに段階的に金利が変わり、10年間は半年複利で利子を計算する。

 ここで、6か月経過後は払戻し自由という点が特徴だ。民間の定期預金では、期限前に解約するときにはペナルティ(解約料)があるが、定額郵貯ではないのだ。

 この定額郵貯を金融工学の立場から見ると、定額貯金の期間は10年で、預け入れから6ヶ月後には自由に解約することができるということは、定額貯金は10年貯金にプットオプションがついたものである。プットオプションとは、将来にある価格で金融商品を売れる権利のことで、定額貯金は経済合理性のない商品ではない。問題は金利の付け方、つまりプットオプションの価値をどのように金利に反映させるかということだ。

 筆者は、かつて大蔵官僚だった20数年前、定額郵貯のプット・オプションの性格を指摘し、適正な金利設定を進言し、具体的な金利設定式を示したこともあった。

 定性的に言えば、定額貯金は定期貯金と解約権(オプション)の組み合わせ金融商品である。解約のペナルティはないが、オプション料が金利に反映されるため、定額郵貯の金利は

10年貯金金利-解約オプション料

となる。もちろん解約オプション料は金利水準や金利動向によって変わる。

 アベノミクスの異次元緩和によって、デフレ脱却が見えてきた。今でこそ、インフレ目標2%が先送りされているが、あと2、3年もすれば、インフレ率が高くなっているだろう。その場合、長期金利は4、5%にまで、上昇する公算が高い。そうすると、定額郵貯では、今はほぼゼロ金利でも残り7、8年は4、5%の利子が複利に付くわけだ。であれば、今現在はゼロ金利ではなく、マイナス金利でも理論的にはいいはず。

 つまり、理論通りに、今の定額郵貯の金利を設定すれば、マイナス金利だろう。それをゼロ金利にしているわけで、貯金者にとって定額郵貯はゼロ金利でもとても有利な商品ということになる。

 もっとも、これは、ゆうちょ銀行にとっては、将来の金利負担が増すという意味で「時限爆弾」である。長らくデフレ経済が続き、金利上昇を忘れているが、過去の金利上昇の局面では、かつての郵貯では、定額郵貯がペナルティなしで高利で乗り換えられ、郵貯は大幅な赤字を出してきた歴史がある。

 こうしたリスクの話は、郵政株売り出しの時に、本来であれば証券会社が投資家に説明すべきである。ところがそうした話はほとんど聞こえない。かなり問題があるのに、監督官庁の金融庁でも見て見ぬふりだ。

 一部のゆうちょ銀行の貯金者は、定額郵貯を解約して、郵政株を購入した人もいたらしい。これがどうやら郵便局の人からのアドバイスによるものらしい。これは、有利な定額郵貯の代わりに、ボロ株を手に入れたようなものだ。長い目で見れば、気の毒でみていられないほどだ。