大江紀洋(Wedge編集部)

 この上場は、10年後、どのような歴史の審判を受けるのだろうか。

 11月4日に上場の鐘を鳴らした日本郵政グループ3社。売り出し総額は約1.4兆億円。うち国内分は1兆円を超え、2014年のIPO(新規上場)による調達総額に匹敵し、最近の東京証券取引所1部の1日あたり売買代金の約半分を占める。「小池にクジラが飛び込むようなもの」とも揶揄されたが、初値は3社とも売り出し価格を上回り、上場後1カ月間の株価も順調に推移している。

配当利回りで庶民を釣る

 カラクリはこうだ。日本郵政、ゆうちょ銀行は50%以上、かんぽ生命は30~50%と配当性向がやたら高い。日本郵政とゆうちょ銀は3%台、かんぽ生命も2%台半ばになるよう、割安感のある売り出し価格が設定されたのだ。この利回りは、メガバンクの定期預金やゆうちょ銀の定額貯金の金利0.025~0.035%に比べて約100倍である。

 ただし、このところの株価上昇で、配当利回りは日本郵政とゆうちょ銀が2%台、かんぽ生命は1%台半ばまで下がっている。東証1部平均の1.5%とそう変わらないが、それでも郵政3社の人気に陰りが見えないのはなぜか。

 それは、3年後と6年後に同様の上場が計画されており、6年間は高い配当が維持される可能性が高いからだ。その上、全3回の売り出しを経ても過半の政府出資が残る。

「暗黙の政府保証と、約100倍の金利がつく6年物定期預金」これが郵政3社株の本質だ。

 株式の割当先は、国内のほとんどが個人投資家向けである。ゆうちょ銀に金を預けているような地方の高齢者層に「政府保証がついた金利3%の6年物定期預金」という謳い文句は響く。売り出し総額1.4兆円はたしかに巨大だが、ゆうちょ銀の貯金残高178兆円に比べればごくわずか。「クジラはクジラだが、ゆうちょの残高の1%が郵政3社の株に変わるようなもの」(銀行関係者)だから安定消化ができている。

 しかし割り当ての個人重視は「機関投資家が保有したがらない」(証券関係者)ことの裏返しでもある。成長シナリオがないのだ。郵政グループといっても本丸は純資産の8割を占めるゆうちょ銀。毎年6000億円を超す手数料を支払って郵便事業を支えるゆうちょ銀は運用資産の半分以上が国債。金利が上昇すればひとたまりもない。

忘れ去られた郵政改革

 融資ができないゆうちょは、そもそも銀行とは呼べない金融機関だ。中期経営計画では資産運用能力の向上を掲げるが、それは“Japan’s hedge fund ”と呼ばれてリーマンショックで深い傷を負った農林中金の道。残るは民間金融機関と連携して、投資信託や住宅ローンを売ることくらいだが、HCアセットマネジメントの森本紀行社長はこう喝破する。

「民間から金融商品を仕入れて郵便局に売るならゆうちょは単なるパススルー。それなら郵便局が直接仕入れればいい。事業の源泉は現場、つまり全国2万超の郵便局ネットワークにある。決裁業務や金融代理店業務はむしろ郵便局に吸収して、物流事業とともに伸ばしていけば成長戦略を描ける」
 郵政民営化は、本来、財政投融資制度改革の一部であり、明治以来の大きすぎる官製金融をどう縮小させていくかという議論だった。三井住友銀行出身で、日本郵政やゆうちょ銀の役員を務め、郵政改革の内実をよく知る宇野輝・京都大学特任教授は、「上場が先延ばしされている商工中金と日本政策投資銀行(DBJ)の民営化と郵政民営化は本来セットだ。融資機能のないゆうちょ銀と、預金機能のないDBJ・商工中金を合併し、地域分割。地方向けの金融機関として民間金融機関とイコールフッティングで競争させていくのが、あるべき“完全”民営化だ」。

 しかし、こういう血の出そうな改革など誰も望んではいない。