松下幸生(国立病院機構久里浜医療センター、日本アルコール関連問題学会事務局長)

 選挙権が18歳に引き下げられることを契機として、成人の年齢について様々な議論が巻き起こっています。その中で飲酒や喫煙可能年齢を18歳に引き下げることが提案されました。この提案については、賛否両論ありますが、アルコールに関連した様々な問題、特に健康の問題に専門的に取り組んでいる立場から懸念される点を紹介します。

アルコールは自殺、不慮の事故に関連する


 アルコール薬物問題全国市民協会のホームページにある急性アルコール中毒等による死者数の集計によると、1983年から2015年まで急性アルコール中毒による死者の無かった年は、2年しかありません。30年余りの間に合計で152名の尊い命が急性アルコール中毒で失われています。急性アルコール中毒は病気とは違って防ぐことのできるものであり、無理な飲酒さえしなければ失うことの無かった命です。

 東京消防庁によると、その管内では平成24年の1年間に11,976名が急性アルコール中毒で救急搬送されていますが、年代別にみると、約半数(5,443名)が20代でした。飲酒経験が浅いことも原因の一つでしょうが、雰囲気にのまれて知らず知らずに飲みすぎるのが若い人の特徴と言えるでしょう。飲酒年齢を引き下げれば、このような不幸な事故が増える可能性が大きいことはご理解いただけると思います。

 15歳から24歳までの日本人の死因は何が最も多いでしょうか。平成25年の厚労省人口動態調査によると、男女とも一位は自殺、二位は不慮の事故となっています。

 自殺の原因にうつ病が多いことはよく知られていると思いますが、うつ病の次に多い精神科の病気は何かご存じでしょうか。答えはアルコール依存症です。アルコールと自殺の関係は海外では有名ですが、日本ではまだあまり知られていないようです。アルコールがどのように自殺と関連するか、少なくとも2つの面が指摘されています。一つは自殺行動の引き金を引く自殺直前の飲酒であり、もう一つは慢性的な多量飲酒です。自殺で亡くなった方の約4割からアルコールが検出されており、自殺直前に飲酒していたことがわかっています。また、自殺企図で病院に運ばれた人からも約40%の割合でアルコールが検出されています。このように、アルコールは自殺行動につながりやすいのです。その理由は、1)絶望感を強める、2)死の恐怖を和らげる、3)自分に対する攻撃性を高める、4)精神的な視野を狭めて死ぬこと以外に考えられなくなるといったことが挙げられます。国内の自殺者数は全体では3万人を下回りましたが、年代別にみると15歳から24歳の男性の自殺者数はじわじわと増加傾向にあります。飲酒可能年齢が引き下げられた場合に若い人の自殺を増やすことになることが懸念されます。

 また、上述のように若い人の飲酒の特徴は普段飲酒しなくても、飲み会などの機会に多量に飲酒するという点でしょう。十代の若い人は成人に比べて理性より感情優位になりやすく、アルコールによる酔いはこの傾向に拍車をかけて、正常な判断を鈍らせ、衝動性を増し、問題行動を起こしやすくさせます。従って、若者の飲酒は急性アルコール中毒のリスクが高いだけでなく、転落、歩行中の事故や入浴中の溺死など不慮の事故の危険性を高めます。アメリカでの疫学調査によると21歳から飲酒を始めた人に比べて、早くから飲酒を始めた人は年齢が早いほど不慮の事故のリスクが高いことが報告されています。従って、飲酒可能年齢を引き下げることは飲酒に関連した事故を増やすことが容易に予想できます。