三浦博史(選挙プランナー)

 ご承知のように、米国の大統領選挙では、短期間で数億円規模の資金を調達(ファンドレイジング)したり、数十万人ものサポーターを集めたり、さらには動画やSNS等を駆使し支持拡大や集会の動員を図るなど、ネットの特性をフルに活かしている。

 わが国の「ネット選挙」は、平成25年4月の「インターネット選挙運動解禁に係る公職選挙法の一部を改正する法律」の成立により、同年7月に行われた参議院議員通常選挙から解禁・導入となったわけだが、法案成立直前に行われた「衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」に、私は与党側参考人として出席し、“選挙後進国”の現状を打破すべく、「ネット選挙解禁」の必要性を訴えた。

 しかし、あれから2年半が経過したものの、選挙の何が変わったのか、特に先の安保関連法の際に話題にのぼった「落選運動」について触れてみたい。

 わが国のネット上での「落選運動」の“はしり的かつ典型的事例”としては、平成25年7月の参議院議員通常選挙での2つの事例がある。

 その一つは、定数5議席を有力6候補で争った東京選挙区だ。ここでは民主党広報委員長でネット選挙解禁の功労者の一人でもあった民主党公認の鈴木寛候補(現職)と、「反原発」を標榜する無所属の山本太郎候補(新人)による熾烈なネット上での争いが注目を浴びた。
参院選東京選挙区に出馬、街頭で支持を訴える無所属・山本太郎候補=2013年7月15日、東京・秋葉原(撮影・山内倫貴)
 山本候補が狙ったターゲットは、自民党公認の丸川珠代候補や武見敬三候補ではなく、野党の経済産業省出身で東日本大震災時に政権与党の文部科学副大臣だった鈴木候補だった。

 序盤の選挙情勢は、定数5の内、自民党公認の丸川、武見両候補、公明党代表の山口那津男候補、そして、参院選の前月(6月)に行われた東京都議会議員選挙で議席を倍増させ、勢いのある共産党の吉良佳子候補の4人が当選圏内で、残る1議席を民主党の鈴木候補と無所属の山本候補の争いと見られていた。

 原発事故をめぐる当時の政府の対応のまずさを街頭の聴衆に訴え続けていた山本候補は、鈴木候補への攻撃に集中する。「文部科学省はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータを福島の住民に見せず、その後も福島の子どもたちに20mSv/年までの被曝を強いた。(当時)副大臣だった鈴木氏は重大な責任を負っている」と、鈴木候補を名指しで「この方を僕は引きずり下ろしたいんです」と熱弁を振るい、この演説がネット上で拡散した。

 これに対し、鈴木陣営も即座に反応し、緊急メッセージとして「どうしても言いたいことがあります。放射能について、誤った理解に基づいて、過度に不安をあおる人がいます」と反論を試みたものの、反論としてのインパクトに欠けていたことは否めず、それから両陣営による批判合戦が始まった。7月14日には鈴木候補が街頭演説中に女性に殴られ、額打撲で全治1週間のけがを負うという事件も発生。通常なら同情票を集められそうなものだが、翌15日の鈴木候補の声明に、名指しはしないものの山本候補を念頭に批判していると解釈される文言があったため、今度は「暴力事件を利用して他陣営を批判した」と、鈴木批判の火に油を注ぐ結果となった。

 結果は山本太郎候補が66万6684票を獲得し4位当選、鈴木寛候補は55万2714票で次点(落選)となった。