和田大樹(セキュリティコンサルタント、清和大学講師)

 11月13日に発生したパリ同時多発テロを受け、世論では共謀罪の創設についての議論が物議を醸している。共謀罪の法案は過去3回廃案になったことがあり、今回も浮上したこの議論においては、自民党もその必要性は認識しているものの、慎重な姿勢を崩していない。

 過去に廃案となったこの法案は、長期4年以上の刑を定める600以上もの犯罪(殺人や強盗などの凶悪犯罪だけでなく、窃盗や傷害、詐欺なども含まれる)について、組織的に行われる犯罪の遂行を共謀した場合に、2年ないし5年以下の懲役あるいは禁錮を科すというものである。仮に同じ内容の法案が国会で可決されると、例えばスーパーで万引きしようと合意したり、人を殴ろうと計画を練ったりするだけで処罰の対象となり、法律の専門家らが指摘するように、表現の自由や人権の保護など憲法上最も保護されるべき価値に大幅な制限を加えることになり、また犯罪の意思の段階では処罰しないとする刑法の大原則にも抵触するので慎重に議論が行われていく必要がある。

 昨今の日本国内での議論を観ていると、共謀罪を導入するかしないかのイエスorノーの議論になっているが、そうではなく、どのような犯罪ではイエスなのかノーなのかというように、各論的な議論をもっと深めていく必要がある。例えば窃盗罪や詐欺罪における共謀罪が成立すれば、おそらく日本の警察は事件の莫大な増加から手が回らなくなるであろうし、それ以前にそれはやり過ぎではないかと思う人が大多数であると思われる。

 一方大規模なテロ攻撃を具体的に計画しているグループに対して、未然防止のため逮捕することには多くの人が賛同するはずである。窃盗・詐欺とテロもそのスケールはケースバイケースではあるが、一般的に、発生後の社会的インパクト、具体的な被害を比較すれば、テロによる法益侵害は窃盗や詐欺のそれらを圧倒的に上回る。

 内閣府が23日発表した「テロ対策に関する世論調査」によると、日本国内でのテロ発生に不安を感じると答えた人は約8割に達し、テロ防止のために利便性より安全が重視されるべきという答えた人は93.6%にも及んだ。また11月23日からヤフーが実施している意識調査(2015年12月13日まで)“テロ対策目的の「共謀罪」創設、どう思う?”においても、今日までに(執筆日12月3日)テロや組織犯罪に特定するなら賛成と答える人が7割にも及んでいる。当然のこと、これらに着目するだけで議論がスムーズに進むわけではなく、あらゆる必要な議論が十分考慮されるべきだが、このようなテロに関する市民の意識は、テロに特定しての共謀罪の成立を促進させる1つの理由づけにはなるであろう。
報道陣に公開された伊勢志摩サミットに向けての警備訓練=11月20日、東京都港区(荻窪佳撮影)
 ではなぜ上記のようなアンケート結果、状況が生じるのだろうか。それには昨今の国際テロ情勢の変化が大きく関わっている。国際テロ情勢というと2001年の9.11同時多発テロを思い浮かべる人が多いと思うが、その当時と比較して今日のそれは非常に悪化、複雑化している模様を見せている。例えば今年米国務省が発表したテロ年次報告書によると、2014年に世界中で発生したテロ事件数は1万3463件で、犠牲者数、負傷者数はそれぞれ3万2727人、3万4791人となった。この数字は前年の2013年と比較して、テロ事件数が35%、犠牲者数が約81%増加し、統計の開始以来最悪の数字を記録した。