山下幸夫(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)

 フランスの首都パリで起きた連続襲撃事件を受けて、自民党の谷垣禎一幹事長は11月17日、テロ撲滅のための資金源遮断などの対策として組織的犯罪処罰法の改正を検討する必要があるとの認識を示した。これは、一挙に600以上の共謀罪を創設する組織犯罪処罰法の改正案(いわゆる共謀罪法案のこと。以下「共謀罪法案」と呼ぶ)のことを指している。自民党の高村正彦副総裁も共謀罪の創設が必要であると発言し、石破茂地方創生担当相も、テレビ番組の収録で、「共謀罪」創設を含む法整備が必要であると発言するなど、自民党内からは共謀罪法案の早期成立を求める声が相次いだ。

 その後、岩城光英法務大臣が、11月20日の閣議後の会見で、「これまでに国会で示された不安や懸念を踏まえ、法案のあり方を慎重に検討しており、国会に提出する時期は未定だ」と述べて慎重な姿勢を示し、官邸筋や安倍首相側近から、通常国会への共謀罪法案の提出はないとの見方が示されて現在に至っている。

 読者にとっては、唐突に共謀罪法案のことが話題になった印象があるかもしれないが、実は、政府は、2013年12月に秘密保護法が成立した直後から、共謀罪法案の国会提出を国会の度にうかがってきた。かつて、国会の主として衆議院法務委員会において大論戦となり、野党が強く反対し、市民からも強い懸念が多く示しる中、衆議院解散で三度も廃案となった法案であることから、政府は、国会への提出に当たって、アドバルーンをあげては世論の動向を見ながら、国会提出の機会をうかがってきていたものである。

 そのような状況の中で、パリでの連続襲撃事件であり、自民党内からの一連の発言も、アドバルーンをあげて世論の動向を見ようとしたのだと考えられる。

 そして、意外にも反対や警戒する声が多かったことから、参議院選挙(衆議院選挙とのダブル選挙の可能性も強くささやかれている)において与党が勝利するためには無理はしないとの観点から、来年の通常国会への提出を見送ったのではないかと推測される。

 しかし、2020年に東京オリンピックを控えて、政府としては、テロ対策を進める必要があることから、参議院選挙で与党が勝利した場合には、その後に召集される特別国会や臨時国会において、共謀罪法案が国会に上程されることは必至である。

 実は、法案自体は、既に昨年秋の時点で法務省内部で検討を終えていると伝えられている。最近、産経新聞が報じたところでは、「組織的な犯罪集団」の行為に限るとか、準備行為(いわゆる顕示行為)を要件とすることなどの法案の骨格が報道された。これらは、政府が共謀罪法案を提案する根拠となっている国連国際犯罪防止条約が認める範囲内のものであり、特に目新しいものではないし、そもそも、2005年の通常国会の最終段階で、当時の与党であった自民党・公明党が、共謀罪法案の修正案を衆議院法務委員会に提出してその議事録に添付されていたが、それと同じ方向にあると考えられる。また、漏れ伝わってくるところでは評判の悪かった「共謀罪」という名称を使用しない方針も伝ってきている。

 もっとも、そもそも、政府が根拠とする国連国際組織犯罪防止条約は、テロ対策のための条約ではなく、経済的利益を目的とする組織犯罪集団(マフィアや日本の暴力団)を対象とするものであり、テロ対策というのは、アメリカに対する2001年の同時多発テロの後に、アメリカや日本政府が後付けでそのように解釈しているに過ぎない。

 日本は国連のテロ防止関連条約のほとんどを批准し、それに対応して国内法も整備しており、テロ対策の法整備はきちんとされており、共謀罪法案が成立しなければテロ対策がされていない訳ではない。