猪野亨(弁護士)

 イスラム過激派のテロの標的にされたフランス・パリですが、フランスのオランド大統領は、混乱に陥っています。
 フランス全土に非常事態宣言を出したかと思えば、それを3か月に延長するよう議会に要求しています。
 非常事態宣言が出されると国家は、国民の人権を制限することが可能になります。強権によって国家が国民を統制していくのです。これが非常事態宣言ですが、安倍氏が憲法「改正」で導入したがっている緊急事態条項です。
 「テロが起きたから国民監視が必要なんだ!」
ということにはなりません。非常事態宣言には人権制限をすること自体に目的があります。政府の無策に対して批判の矛先が向かないようにするためです。それ以上に今後、さらなる軍事力に頼る路線をひた走ることになるわけですが、それに対する批判も封じなければなりません。それが非常事態宣言の目的なのです。
フランスのオランド大統領
 戦時体制の元では国家に対する批判は許さない、戦争そのものの批判すらも許さないのがその本質です。

 オランド政権の暴走はそれだけに止まりません。
 何と、政府にとって気に入らない国民のフランス国籍の剥奪だそうです。反政府的なモスクの閉鎖も強行するそうですが、これではテロとは無関係のイスラム系フランス人たちが大弾圧を受ける様相です。
 移民の国がこのような政策をとることは自殺行為です。今まで散々、移民の労働力によって楽をしてきたフランスでありながら、今度はその移民たちを敵に回すのですから、これで相互理解など得られようはずもありません。
 しかし、そもそも国籍剥奪というような暴挙が実現できるのでしょうか。生まれながらにして取得した国籍であろうと、帰化によって得られた国籍であろうと、そこに区別があろうはずもありません。そのような区別は人種などによる差別と同じことで、人権劣等国のすることです。

 モスクの閉鎖も「反政府的」という曖昧な基準であれば政府批判をしただけで弾圧を受けることになりかねないし、今の混乱したオランド政権は実際にそうするでしょう。
 関東大震災の際に、日本人が朝鮮人を大量虐殺してきたことを彷彿させます。

 テロという緊急事態だから?
 それこそがもっとも危険な発想です。そのようなときだからこそ、厳しく国家権力の行使のあり方を監視しなければならないし、その手段を制限しようなどという動きは断固として反対しなければならないのです。
 この政府による無法行為を放置、黙認すれば人権侵害が甚だしくなり、独裁状態になります。そしてさらに人権侵害が拡大していくのです。

 日本の指導者たちの発想も同じです。緊急事態条項だ、憲法「改正」だと騒いでいるのが安倍氏です。
 自らテロの標的になるような原因を作っておきながら、憲法「改正」と騒ぐのですから、これほどたちの悪い人はいません。
 そして、何とこのどさくさの中で「共謀罪」だそうです。

 共謀罪という従来の刑法の枠組みを超えて「共謀」するだけで犯罪としてしまう極めて恐ろしい法律です。犯罪となる行為の概念が曖昧となり、罪刑法定主義に反するだけでなく、国家による恣意的な立件を可能にしてしまう治安立法です。
 自民党は、これまでも共謀罪の成立を目指してきましたが、日弁連をはじめ、反対運動の中で廃案となってきました。

 安倍政権にとって、パリの同時テロは、格好の口実となっているわけです。
 戦争国家体制を作り上げるためには、「反対」の声を潰すことであり、今まさに日本の政治は、その路線を突き進もうとしています。

 混乱に陥ったフランスをよくみてみましょう。私たちもあのようになりたいのか、それが問われているのです。
弁護士 猪野 亨のブログより転載)