室谷克実(ジャーナリスト)

 韓国の政権はつまるところ、最強の対日攻撃兵器である「慰安婦問題」を手放したくないのだ。攻撃兵器として維持するためには、朝日新聞の大誤報と、政治的妥協による「河野談話」をもとに、韓国の官民が一体となって創り上げた“慰安婦の虚像”が毀損されては困るのだろう。

 韓国の検察当局が、史料を基づいて慰安婦の実像に迫った学術書『帝国の慰安婦』(日本語版・朝日新聞出版)の著者で、世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授を、元慰安婦に対する名誉毀損罪で在宅起訴したのは、まさに虚像を守るためだ。

 「学問の自由」に関わる今回の起訴について、韓国の主要新聞が社説で取り上げないのは、なぜだろうか。ここで「学問の自由」を擁護する社説を書いたら、「親日新聞」と攻撃されるのが目に見えているからだろう。しかし、新聞が“沈黙は金”を決め込む国家が行きつく先は全体主義だ。

 社説には取り上げないが、一般記事としてはもちろん報道している。

 最も詳しく報じたのは左翼紙のハンギョレ新聞(2015年11月20日)だった。この件に関しては、検察支持の立場だ。検察が虚偽の事実だと判断した部分も列挙している。以下、抜粋する。

 「朝鮮人慰安婦の苦痛が日本人娼妓の苦痛と基本的に変わらないことをまず知る必要がある」

 「『慰安』は、過酷な食物連鎖構造の中で、実際にお金を稼げたものは少なかったものの、基本的には、収入が予想される労働であり、その意味では『強姦的売春』だった。あるいは『売春的強姦』だった」

 「ホロコーストには『朝鮮人慰安婦』の持つ矛盾、つまり被害者でありながら、協力者という二重の構図はない」

 「少なくとも“強制連行”という国家暴力が朝鮮の慰安婦に対して行われたことはない」
ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦問題を表す少女像=12月2日(共同)
 朝日新聞が問題の発端となった記事を取り消したのに、韓国の検察は「“強制連行”が行われたことはない」とする記述を“虚偽”と判断した。つまり、依然として“強制連行された慰安婦”という虚像にしがみついているのだ。

 ハンギョレの記事はこう説明している。

 「検察は、国連の調査資料と韓国憲法裁判所の決定、米国連邦下院決議、日本の河野談話など、客観的な資料を収集して朴教授の本と比較分析した結果…虚偽の事実に当たると明らかにした」

 なんだ、大もとは朝日新聞ではないか。同社の子会社が『帝国の慰安婦』を出版しているのは、せめてもの罪滅ぼしのつもりなのだろうか。

 もはや多くの日本人は、慰安婦問題に関する韓国の言動を「まともな攻撃」とも受け止めていない。「まだ、言っているよ」と、お笑いの種にすらなりつつある。

 が、韓国の政権は、対日攻撃兵器は依然として有効だと信じている。それを保持するため、従北派が主導権を握る元慰安婦支援組織に振り回され、自由と民主主義の価値観から、さらに一歩一歩と遠ざかりつつある。不幸な国だ。

むろたに・かつみ 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。主な著書に「韓国人の経済学」(ダイヤモンド社)、「悪韓論」(新潮新書)、「呆韓論」(産経新聞出版)、「ディス・イズ・コリア」(同)などがある。