冨宅恵(弁護士)

流出の危機にさらされる技術情報


 企業活動において事業上有用な情報は、技術情報と営業情報に大別することができる。そして、技術情報、営業情報のいずれもが、事業者が競業者との差別化を図り、事業を安定的に継続する上で源泉となるものであり、情報を保有する事業者としては法律による保護を強く求めるところである。

 事業上有用な情報を保護する法律としては特許法が存在するが、特許法の保護対象として営業情報は含まれず技術情報に限定されている上に、全ての技術情報が保護されるわけではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの(特許法において「発明」と定義されるもの)に限定されている。

 事業活動においては、上記した発明に該当しない技術情報が多数存在し、それらの情報が事業上有用なものとして活用されているところであり、特許法によって保護される発明と同様に法的保護が求められている。

 また、特許登録においては発明の公開が伴うこととの関係で、企業は、特許登録が可能な全ての技術情報を特許登録しているわけではなく、中核的な情報、開発の方向性を決定づける基礎的な情報等については戦略的に秘匿化するという選択を行っている。このような公開を伴う権利化を選択するのか、敢えて戦略的に秘匿化の方法を選択するかという「オープン・クローズ戦略」は、企業が国内外において競争力を維持する上で非常に重要になっており、秘匿化された技術情報の法的保護が強く求められる理由となっている。
 他方で、秘匿化された技術情報は、退職者、技術提携先、海外技術者、サイバー空間等を介して、常に流出の危機にさらされており、近年においては、韓国製鉄メーカーポスコによる新日鐵住金の高性能鋼板に関する製法技術の不正取得・不正使用、韓国電機メーカーによる東芝のNAND型フラッシュメモリーに関する技術の不正取得・使用といったクロスボーダー型の大型技術流出事件が発生し、秘匿化された技術情報の法的保護の重要性が改めて認識されているところである。

 さらに、技術情報だけではなく顧客情報、需要動向等の営業情報も競争力を維持する上で不可欠な情報であるが、これらの情報は、前記したとおり特許法によって保護されることはない。しかし、ベネッセコーポレーションのように、業務提携先によって大量の顧客情報が流出され、事業継続が危険にさらされるという事件を受けて、営業情報の法的保護の必要性についても再認識されているところである。