日本企業を狙う中国の産業スパイ活動はますます活発かつ巧妙になっている。何度も機密情報が流出してきたにもかかわらず日本側の備えはまだまだ足りない。ジャーナリスト 向坂公輔氏が中国による産業スパイ活動についてリポートする。

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 日本を狙った中国の産業スパイ活動の一端を担わされているのが8万人以上いる中国人留学生とされる。中国の諜報活動研究を専門とする『月刊中国』主幹の鳴霞(メイカ)氏が語る。

「多くの中国人留学生は真面目に勉強する志を持って日本に来ています。しかし、特に国費留学生の場合はたとえ本人が望んでいなくても、いつの間にか中国の情報工作に組み込まれてしまっているケースがあるのです」

 中国の情報機関では、本国で訓練を受けたプロの工作員を「基本同志」と呼び、諜報活動の中での協力者を「運用同志」と呼ぶ。留学生は「運用同志」となることを求められるという。
ロンドンの中国大使館
 「日本の主な大学では中国からの留学生や研究員が情報交換する集まりがあります。それ自体は何の問題もないのですが、彼らは定期的に中国大使館に集められます。

 国費留学生は政府から学費や生活費を出してもらっていますから、そこで研究分野などについて報告する。その中で大使館側が、産学連携を進める研究室に所属する学生などに『より詳しい内容を提出するように』と指示を出すケースがあります」(鳴霞氏)

 大学と企業が連携して進める最先端の研究内容は中国側が喉から手が出るほど欲しい情報だ。「博士課程に在籍する留学生に、『所属する研究室の教授のパソコンから論文原稿を持ち出すように』といった指示が出る。留学生側はあくまで大使館への活動報告の範囲と考えているが、それが同じ分野を研究する中国の大学や企業へ流れてしまう」(在中国ジャーナリスト)といった懸念を持つ専門家は多い。

 昨年4月には防衛省情報本部の女性事務官が部外秘の資料を持ち出そうとしていたことが発覚し、調査の結果中国人留学生と接触していたことが判明した。こうした例から類推できるように、表向きは留学生の身分で情報のプロが入ってくるケースもある。

 2007年にデンソーに勤める中国人エンジニアが13万件にも及ぶ機密設計情報を不正に持ち出していた事件では、当該エンジニアは中国国営の軍事関連会社に勤務した後、留学生として来日して大学を卒業し、デンソーに入社していた。

「2012年に工作機械大手のヤマザキマザックで中国人社員が工作機械用図面情報約2万点を不正に持ち出した事件でも、逮捕(不正競争防止法違反)された社員は日本の大学を卒業していた。

 最初からスパイ目的で送り込まれている者もいるし、日本企業が中国人社員を幹部候補生として扱わず昇進が遅れたことなどに不満を募らせた結果、社の利益に背いて情報を持ち出そうと考えるケースも少なくない。日本人の管理職が『彼は真面目だ』と判断しても、それとは別次元の力を働かせる勢力がいるのです」(鳴霞氏)

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