加藤彰彦(明治大学教授)

 「家族の復権」と題された本特集で、編集部より私に求められた課題は、伝統的家族と出生率の関係について、家族人口学の観点から考察することである。いうまでもなく、こうした課題設定の前提には、少子化・人口減少が我々の家族と社会にもたらす危機という認識があるので、まずはこれがどのような危機なのか、簡単な人口ピラミッドのグラフを使って概観することからはじめたい。なお、この小論では、出生率よりも普遍的な概念である出生力という言葉を中心に使用する。いわゆる合計特殊出生率は、社会全体の出生力の水準を表す数多くの指標の1つにすぎないからである。

少子化・人口減少の危機


 図1と図2は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の最新のデータを用いて、それぞれ2012年(実測値)と2060年(平成24年推計値)の人口ピラミッドを描いたものである。この図では、年齢各歳人口を男女別に積み上げている(補助線については後述)。2012年のグラフにみられる60歳代の出っ張りは団塊世代、40歳前後の出っ張りは団塊ジュニア世代である。現在の年間出生数はちょうど100万人。団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)の年間200万人からは半減し、ずいぶんと高齢化が進んできたとはいえ、この世代がまだ中年期にいるので、グラフからは、構造としての安定性が感じられる。

 一方、半世紀後の2060年には、出生数はさらに半減して48万人、総人口も8600万人まで減少すると予測されている(この年の合計特殊出生率は1・35、出生中位・死亡中位推計)。この時点ですでに、人口ピラミッドは細長い逆ピラミッド型へと変化を遂げており、外から大きな力が加われば簡単に倒れるような不安定な構造になる。

 社人研の推計は複雑な計算にもとづいているが、基本的には現在の出生力水準を将来に延長したものといってよい。図2は全国のグラフであるが、地方によっては2060年よりもずっと早い時期に逆ピラミッド型の人口構成に変化する。昨年話題になった日本創成会議による「消滅可能性」リストに掲げられた市町村がそうした地域である。

 周知のように、人口を維持する(再生産する)ためには、大人世代が平均して2人の子どもを生み育てなければならない。孫については内孫2人+外孫2人の4人が必要である。図1では、子ども人口を基準に縦方向に補助線を引いた。この点線で挟まれた幹の部分の人口が、平均2人の子どもをもち、4人の孫をもった人びと――すなわち家族を再生産した人びと――に相当する。古い表現を使って、家を絶やさずに継承した人びとといってもよい。当たり前のことだが、このように確実に家族を再生産する人びとのみで、社会保障制度をつくれば、年金・医療・福祉が破綻することはなく、持続可能なものとなり、支払う保険料も安くてすむ。

 それゆえ少子化・人口減少の危機とは、家族が再生産されないために社会保障・社会福祉が破綻していく危機として、あるいは家が絶えていくことで、地方社会・地域社会が消滅し、やがては国家が消滅していく危機として理解することができる。