屋山太郎(政治評論家)

 安倍政権に不満はないが、この政権が永久に続くわけではない。自ずと交代の時期がくるはずだが、次の総理候補が見当たらない。本命と目された石破氏は20人の派閥結成でその目が消えた。では誰かと追い求めると、5~6年ほど先に橋下徹氏の顔が浮かぶ。

府民らと教育問題を話し合う討論会で、参加者からのヤジに語気を強めて反発する大阪府の橋下徹知事=2008年10月26日午後、大阪府堺市中区
 橋下氏は府知事でも市長の時も喧嘩ばかりするから首相に向かないという人がいた。だが、橋下氏の喧嘩には常に大義がある。府知事に就任して真っ先に手をつけたのが教職員に規律を守らせることだ。教員基本条例制定に至る過程で日教組と喧嘩し、文科省をバカとののしり、教育委員会こそ無責任のクソ野郎だと断じた。安倍内閣で首長も教育行政に関われるようにしたのは、橋下氏の目標に合わせ、手段を会得したからだ。

 日教組と喧嘩して勝った自民党内閣はない。橋下氏は日教組との団交を公開で行い、大衆の反応を見つつ、勝ちに行った。自治労は地方公務員の守護神のようなものだが、橋下氏は厳しい規律を求めた。5回も戒告を受ければクビになるような職員基本条例も制定した。日教組と自治労は連合を形成する2強組合だが、橋下氏が民主党を「あれはダメな政党です」と断ずるのは民主党が2強に支えられているからだ。この2強に国鉄の労組が加わって総評を牛耳っていた。総評に喧嘩を売って勝ったのは橋下氏一人だ。

 知事になって重大問題として教育をとり上げた勇気と見識に大阪府民、市民は熱烈に支持しているのである。

 大阪市バスの運転手の給料は平均年収で738万円で、年収1000万円を超える運転手がゴロゴロいる。これに対して在阪大手5社の平均は544万円。市バスの方が1・36倍の高さだ。橋下氏は交通局にハッパをかけて市バス運転手は38%、地下鉄運転手は5%引き下げ案をまとめさせた。人件費を総額で42億円倹約しようというのである。

 一方で市の天下り団体は70から18に激減、天下り団体の随意契約も320件から20件、全額では350億円から50億円に激減させた(14年2月時点)。土光臨調では国鉄の分割・民営化を成し遂げたが、他の特殊法人(天下り法人)は一つも潰せなかった。せいぜい合併してお茶を濁しただけだった。

 橋下改革は次々に打ち出されるのだが、目下、遅々として進まないのは市議会が拒否するからだ。市民はこれを知っていて府・市の二大選挙では両方とも橋下氏側の首長を大勝させた。

 橋下氏の反対側で自民党は共産党とまで組んで対立候補を応援した。それが保守層の棄権の増加を生んで敗れた。手段を選ばず、天下の大義に刃向かったから敗けたのだ。