榊淳司(住宅ジャーナリスト)

 先日、新潟県南魚沼市にあるリゾートマンションの管理組合前理事長が、管理費など総額11億円余りを着服していた疑いがあることが報道された。

 私が知る限り、マンション管理組合の横領事件としては過去最高額だ。この理事長、約15年間もその職にあったという。本来の仕事は公認会計士というから、他の区分所有者もすっかり信用してしまったのだろう。

 この事件があったマンションの規模は約550戸。管理組合が集める管理費や修繕積立金等の総額は、年間で3億円前後に達するはずだ。
管理費の着服が発覚した大型リゾートマンション=新潟県南魚沼市
 この物件はスキーリゾートに立地するが、都心や郊外でも500戸、1000戸規模のマンションは珍しくない。

 その規模になると、管理組合に集まるお金は数億円規模。その使い道を決めるのは、管理組合の理事会だ。

 管理組合の理事会とはマンション内の行政機関のようなもの。そこで行われることは、市町村の役所がやっている行政のミニ版だと考えるべきだ。ただし、その行政力が及ぶのはマンションの敷地内のみ。また、「管理規約」や各種「使用細則」というルールに縛られる。

 あまり知られていないが、管理組合の理事長には巨大な権限がある。その理由は、管理組合の最終的な意思決定を行う総会の決議方法にある。

 まず、総会に提案する議題を決めるのは理事会だ。理事会で意見を取りまとめるのが理事長。理事と理事長の意見が違った場合、実質的に理事長の承認なしには総会の議案は決められない。なぜなら、多くの総会では区分所有者の大半が「議長一任」の委任状を出す。総会で議長を務める理事長が、その権限を行使すればどんな議案でも否決することができる。

 理事長の権限とは、行政組織の長である市区村長や知事が持っている巨大な権力に近い。そして、行政とはすなわち、予算の立案と執行だ。

 500戸以上のマンションの理事長は、年間数億円にもなる管理組合収入の使い道を、実質的に独断で決めることができてしまう。理事は、いってみれば地方議員みたいなもの。理事会で意見を言えるが、予算案やその他の議案を提案しても、理事長に反対されると引き下がらざるを得ない。

 多くの管理組合では、理事が輪番制になっている。しかし、やりたがらない人が多い。理事長はだいたいの場合、「理事による互選」で選ばれる。つまり、理事たちがお互いに押し付けあって決めているケースがほとんど。しかし、理事長にはかくも巨大な権力がある。そのことに、多くの人は気づかない。

 理事長がその権力を悪用しようとすれば、かなりのことができる。また同じ人間が何年も理事長を続けると、大胆に悪用できる。今回の巨額横領事件がいい例だ。

 分譲マンションの区分所有者であるなら、自分たちの管理組合の活動に目を光らせるべきだ。特に何年も同じ人間が理事長を続けている場合は要注意。「絶対権力は絶対的に腐敗する」という政治の法則が、利権化した管理組合にもあてはまるからだ。

さかき・あつし 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収200万円からのマイホーム戦略」(WAVE出版)など。