ISILによる日本人人質殺害事件を受け、安倍晋三首相は対外情報機関の創設を検討していると発言した。日本には対外情報機関の存在が不可欠だと訴えてきた落合信彦氏は、いまのままではこの構想は失敗する可能性が高いと指摘している。成功させるにはどうすればよいのか、落合氏が解説する。

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 日本が情報機関をつくる上で何が足りないかを述べるのは大変だ。欠陥があまりにも多すぎて、挙げればキリがなくなるからだ。

 日本には、情報機関のもとになるような既存の組織がなく、人材もいない。日本の既存の情報部門のなかでマシなのは警視庁公安部ぐらいだろうが、日本版CIAを公安中心でつくることは、外務省が反対するだろう。日本版NSCのトップが谷内正太郎・元外務次官だったように、今回も各省庁の利権争いが予想される。だが、既存の省庁の寄せ集め組織になれば、日本版CIAは絶対に失敗する。
「イスラム国」日本人人質事件 後藤健二さん殺害の報を受けて多くの報道陣が集まる現地対策本部=2月31日、ヨルダン・アンマン(大西正純撮影)
「イスラム国」日本人人質事件 後藤健二さん殺害の報を受けて多くの報道陣が集まる現地対策本部=2月31日、ヨルダン・アンマン(大西正純撮影)
 実はイスラエルのモサドもはじめは、外務省がコントロールする形の組織が想定されていた。それをひっくり返したのは、初代首相のデヴィッド・ベングリオンだ。彼は、情報機関は首相直轄の独立した組織でなければ意味がないと主張した。その結果、モサドは絶大な権限を得て、いまの地位を築いたのだ。

 日本が情報機関をつくるには、独立した組織にした上で、エージェントの養成学校を創設してゼロから学ばせなければならない。教官としてモサドのOBを招聘するのも一つの手だろう。しかし、それも容易なことではない。CIA、SIS、モサドに入る一番の条件はIQが高いということで、モサドなどはIQ130以上でなければ受け付けない。50の電話番号を瞬時に頭に詰め込ませるテストなども行われる。

 さらに、最低限3か国語は話せる必要がある。モサドでは8か国語を話せるエージェントが何人もいる。例えばイランのパーティーに行けば、当然ペルシャ語を理解していなければ話にならない。そこで、分かっていながらペルシャ語を知らないふりして、交わされる会話から情報を吸い上げるのがエージェントの仕事なのである。

 そんな有能な人材が日本で集まるのか、はなはだ疑問である。CIAは情報収集担当だけで5000人を有し、全体では3万人前後、さらに外国にいるエージェントを含めれば5万人以上になると言われている。それぐらいの規模でやらなければ、情報機関として機能しないということだ。

 さらに、安倍政権が全く分かっていないのは、情報機関をつくるには莫大な予算がかかるということだ。

 CIAでは、それだけの数のエージェントたちが、世界各国で多額のカネを使って、情報を集めている。情報機関において、敵方エージェントを引き抜くために使われる用語として「MICE」という言葉がある。Mはマネー(カネ)、Iはイデオロギー(思想)、Cはコンプロマイズ(強制的屈従)、Eはエゴだ。祖国を裏切らせるには、思想的に引きつける、ハニートラップなどによって服従させる、その人の自尊心を満たそうとするなどの条件が挙げられるが、何よりも大切な第一条件として挙げられるのがカネである。

 CIAのカウンターインテリジェンス部門の分析官だったアルドリッチ・エイムズは、ソ連に寝返る対価として、250万ドルものカネを得たという。世界では、情報の価値とはそれだけ高いものなのである。1000兆円に及ぶ借金まみれのこの国で、そんなことが可能だろうか。


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