安倍宏行(Japan In-depth 編集長)

 連日ワイドショーを賑わせた「軽減税率」。どの番組でも、「コンビニで買った弁当をイートインで食べると税率は8%か10%か?」などとクイズまがいの質問をゲストに投げたりしていたが、相も変わらず本質に迫らない薄っぺらい内容ばかりだった。たまにボードを使って真剣に解説しているなと思いきや、やれ官邸が主導しただの、自公の元国対委員長同士が会っていただの、政局がらみの解説を政治評論家がしたり顔で話しているだけ、とか脱力するしかない。

 間違いなく「軽減税率」は政局の賜物である。来年の参院選に向けその導入は不可避だった。つまり、結論ありきだったのだ。筆者が「筋悪」と評するこの政策は、低所得者層に対する「痛税感」緩和に効くように見える。しかし、それは一過性のものであり、いわばカンフル剤だ。やがて国民に大きなつけとなって返ってくる。それを承知で書かない新聞の罪は重い。テレビは論外だ。

 ではなぜ「軽減税率」がダメなのか。答えは簡単だ。まず、一律に食品などに軽減税率をかけるので高所得者層にも恩恵が及ぶ。低所得者をターゲットにしたものではない、という意味で「逆進性」緩和になっていない。二つ目に税収が大きく減る。消費税率2%上げで税収増は5.6兆円が期待されている。しかし、「軽減税率」を導入すると1兆円超の税収が減る。率にして2割近い。その財源もまだ決まっていないという杜撰さだ。そもそも何故消費税率を10%に引き上げるのか。社会保障の充実の為ではなかったか。本当の目的を忘れ、大衆に受けの良い政策を推し進める政府・与党を何故大手マスコミは批判しないのか理解に苦しむ。

 もう少し詳しく説明しよう。そもそも「逆進性」という言葉が独り歩きしていることに筆者は違和感を持つ。「逆進性」とは、消費税率が上がると収入に対する食料品など日用品の消費の割合が高い低所得者層ほど税負担率が強まることを言う。一般的に消費税のデメリットとしてこの「逆進性」という概念が語られてきた。しかし、慶應義塾大学の土居丈朗教授は、「個々人の消費行動 を一生涯通じてみてみると、消費税の負担は、(生涯)所得が多ければそれだけ多くなるか ら、税負担は生涯所得に対して比例的になるのであって、逆進的ではないと理解するのが 正しい」(注1)と述べている。従って頭から消費税の「逆進性」緩和が至上命題だ、と論ずることに疑義があることは指摘しておく。

 とはいえ、短期的に低所得者層が負担が重いと感じることは事実であろうからなんらかの対策が取られるべきだという論には賛成する。しかし、その対策が「軽減税率」の導入では、高所得者層にも恩恵が及び、「逆進性」緩和にならないことは明白だ。低所得者層をターゲットとしている「給付付き税額控除」が注目されるのはその為だ。

 この「給付付き税額控除」だが、「逆進性」緩和に資することは財政学の常識だ。低所得者に対し、年間支払った消費税の一部を還付する、というこの簡素な仕組みは、カナダなどで採用されている。同国の連邦付加価値税GST(Goods and Services Tax)の控除制度がそれで、1991年に導入された。その仕組みは、低所得者が年間に負担した消費税相当額を所得税の中で税額控除・給付するものだ。

 控除は世帯ごとの収入により、家族構成と所得額に基づいて給付額が決まる。年収およそ3万カナダドル(約260万円:2015年12月22日時点で1カナダドル=約87円)以下は控除額が一定で、3万ドルを超えると控除額は低減していく。大体、夫婦と子供二人、年収260万円の世帯で、年間約7万円が還付される。これはカナダにおいて消費税の負担のかなりの割合を控除する額になっている。カナダ方式は制度がシンプルで行政コストが少ないことや、低所得者層を対象に給付が出来、消費税の逆進性を緩和する効果が大きい。