城繁幸(人事コンサルタント)

 筆者は公明党について、既存のイデオロギーに縛られることなく合理的な判断のできるスマートな都市型政党とのイメージを持っていたが、それが最近揺らいでいる。同党が、生鮮食品および加工食品に対する消費税軽減税率の導入に固執したことが原因だ。

 筆者の知る限り、軽減税率の導入に賛意を示している識者は一人もいない。これほど百害あって一利なしとの認識が広く共有されている政策も珍しい。というわけで、以下に代表的な弊害を挙げよう。
1.低所得者層に対する支援効果がほとんど見込めない
 2%の軽減税率とすると、食材の購入に毎月3万円払っている人間は600円ほど消費税が安くなる計算となるが、毎月30万円払っている食道楽は6000円も軽減されることになる。だったら両者から6600円ほど徴収して前者に5000円くらい支給するのが真の低所得者支援というものだろう。

2.税収減による社会保障予算のカット
 軽減税率の導入により、財務省試算によれば1兆円程度の税収減となり、当然ながらそのしわ寄せはどこかに及ぶことになる。既に先日、子育て世帯臨時特例給付金(2015年度一人当たり3000円)の来年度からの廃止が決まったが、効果の薄い軽減税率導入の余波で子育て世帯への支援が減ったとするならとんだブラックジョークである。

3.事業者負担の増加
 事業者は仕入れ品ごとに異なる税額を計算、控除しなければならないし、レジシステムも複雑な仕様変更が必要となる。実際に日本スーパーマーケット協会等、複数の小売り、外食業界団体が軽減税率の導入に反対を表明、かわりに簡素な給付金制度の導入を求めている。

4.利権の発生
 さらに言えば、軽減税率適用の線引きをどこに引くかという大問題が控えている。ハンバーガーを店で食べれば外食だが、テイクアウトすればどうなるのか。テイクアウトして店の外に並べられたベンチで食べればどうなるのか。なぜ社会のインフラ代表として新聞がこっそり紛れ込んでいるのか等、一国民として理解できない線の引かれ方がされている。

 では、低所得者層に対する支援どうあるべきか。上記の日本スーパーマーケット協会と同じく、給付付き税額控除が望ましいというのが筆者のスタンスだ。これは一定の所得未満の低所得者に所得税を免除、あるいは逆に差額の一部を給付するというような仕組みで、就労意欲を損なわず、低所得者層を支援できるというメリットがある。政党では民主党や維新の会がマニフェストに明記し、筆者も所属するワカモノマニフェスト策定委員会も提案している政策だ。

 日本は諸外国と比較すると、社会保障給付が高齢者に偏在し、現役世帯向けの給付がきわめて薄いという特徴がある。給付付き税額控除はこれを補い、現状では生活保護まで落ちなければ利用できないセーフティネットの幅を広げるものだ。

 一連のアベノミクスと今回の軽減税率には奇妙な共通点がある。アベノミクスは現在停滞気味で、その原因は“第三の矢”と銘打った規制緩和に、政府がほとんど手を付けていない点にある。要するに痛みを伴う改革が怖いのだ。

 軽減税率も弱者をいたわるふりをしつつ「多く取るつもりだったがちょっぴりまけてやる」という点で、何の痛みも伴わない、中身の無い政策である。一部には安保法案成立から現政権の暴走を危惧する論調もあるが、これほど暴走の危険のない、というか前に進むのかすら怪しい政権も珍しいというのが筆者の意見である。