竹内薫(サイエンス作家)

 人類(日本人)は、はたして火星に降り立つことができるだろうか。無論、小説やSFではなく現実問題として。

 答えはノーである。なぜなら、アポロ11号のルイ・アームストロング船長が月面に降りたってから半世紀近い年月が経つのに、いまだ「月より遠くまで旅した人はいない」というのが実情だからだ。地球から月までの距離は約38万キロメートルだが、火星までは(最も近いときでさえ)5500万キロメートルもある。アポロ11号は月まで約4日かけて辿り着いたが、火星までは8ヶ月もかかってしまう。火星で1年くらい探査をして地球に帰還するまでに締めて3年! これでは、時間がかかりすぎて宇宙飛行士も嫌がるだろうから、非現実的なのだ。それに、仮に火星に降り立ったとしても、大気の95%は二酸化炭素なので宇宙服を脱ぐことができないし、地球のように(水の)川や海があるわけでもないから飲料水の確保だって一苦労だ。

 でも答えはイエスである。アメリカのオバマ大統領は「2030年代中頃までに火星の有人探査をおこなう」と表明しているし、日本だって、文部科学省とJAXAを中心に火星探査計画を練っている。国際宇宙ステーションに宇宙飛行士が長期滞在をする理由の一つは、将来の有人火星探査を見据えての実験・訓練だとも言われている。また、原子炉で液体水素などを加熱して噴射する原子ロケットを作れば、ずっと短時間で火星に行くことができるから、遠くて時間がかかるという問題に関しては、技術的に乗り越えられないわけではない。

 それに、なんといっても、火星は地球の「お隣さん」の惑星ではないか。自然と、月の次に訪れるべき天体の第一候補ということになっているのだ(金星もお隣さんだが、表面温度が460度なので有人探査はちょっとムリ)。

 いろいろな面で火星は地球に似ている。火星は1日が約24時間40分で、自転軸が傾いているので季節があり、重力が地球の4割で、平均気温はマイナス43度なのだ。ええ? マイナス43度なんでムリ!と思われるかもしれないが、私が若い頃に住んでいたカナダのモントリオールでは、冬にマイナス25度なんてざらだったから、決してムリな気温ではない。それに、火星の最高気温はプラス20度だし。

 というわけで、イエスとノーの理由を列挙してみたが、私は個人的に「イエス」だと信じている。人類は冒険心が豊かな生き物なので、未踏の地があったら、必ず誰かが行く。2030年代半ばまでに行かれるかどうかは別として、近い将来、必ず人類は火星に降り立つにちがいない。ただし、アメリカのNASAは日本のJAXAの10倍の予算を持っているので、おそらくアメリカ人が最初に火星に降り立つことになるだろう。でも、国際宇宙ステーションから引き続き欧米との協力関係を大事にしていれば、日本人宇宙飛行士も必ずや火星に降り立つことができる!