古谷経衡(著述家)


SW7は「高い店のうまい飯」

 端的に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(以下SW7)の印象を言ってしまえば、「高い店でうまい飯を食った」という感じ。公開翌日の2015年12月19日、東京都内とはいえ辺境にある映画館のレイトショーであるにも関わらず、客の入りは相当だった。SW7の興行的成功を直感した。それは後の報道でも裏付けられた。

 さて私は通常、一回のディナーに1人1万円以上掛かるような「高い店」に行くのはあまり好きではない。それよりも、3,500円位の会計で満腹になる家族経営の非チェーンの居酒屋でチビチビとやるのが好きだ。「高い店」がダメで、「安い店」が良い、と言っているわけではない。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 (C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 (C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved
 ドン・キホーテのワインコーナでは売っていないワインをグラスにあけ、但馬や鹿児島で育った牛のステーキをわさび醤油で食べるのは最高の贅沢だと思う。多分そういう店は、空調も間接照明も眺望も第一級だ。いちいち野菜やデザートの産地をシェフから説明されると、なんとなく美味そうに感じる。私は富裕層ではないからよくわからないが、親父がこびりついた油でギトギトになった焼き台で焼いたねぎまや、店のママさんが作り置きしているポテトサラダとは、何から何まで訳が違うのだろうと思う。

 でも私がこういう「高い店」があまり好きではないのは単に経済的な理由だけではなくて、「高い店がうまい」のはあたりまえの事だからだ。2人で入った店のディナーの会計が4万2000円なのに、デフレ飯系のチェーン店と満足感が同じだったら訴えられるだろう。「失敗がない」という安心感がある代わりに私たちはここぞというデートの時や何かしらの記念日に際して「高い店」に行き、そこで高い会計を払っているのだ。しかし、それは当たり前のことであって驚きは存在しない。

 私が期待しているのは、3,500円という会計の割には大満足でき、また次の週末に一人で来たいと思わせるような大衆的で良心的な店だ。大衆的で良心的な店はグルメとは遠い、みたいな事をいう人間は単に「東京」とか「六本木」などという地名にステータスを感じているだけの田舎者にすぎない。

 グルメとは「高い店でうまい飯を食う」ことであると私は定義しない。グルメとはある種の驚きである。よって「高い店でうまい飯を食う」のは当たり前のことであり驚きとは遠い。良心的な会計の中に至高の驚きを見つける事こそが真のグルメであり「食道楽」だと思う。

 前置きが長くなったが、そういう意味では、SW7は、第一級の(高い原価の)素材を基に、最高の環境で提供された「高級料理店の高いディナーだ」。確かに、料理長は『LOST』を皮切りに『スタートレック(11作~)』『スーパー8』等で一躍世界的に名が知られるようになった気鋭、JJエイブラムス(以下JJ)。まだ40代後半の若さとはいえ、しっかり経験とヒットの実績を積んでいる。失敗はない。