中国メディアで最近、よく出てくる言葉として「ザーサイ指数」というのがある。中国を代表する漬け物、ザーサイ(搾菜)の各地の消費量から、その地域の出稼ぎ労働者を推測し、景気状況を判断するときの指標である。背景には、中国各地政府が発表する経済数値にはねつ造されたものが多く、公式データだけでは正しい経済状況を判断できない事情がある。

 いまの中国には計2億6000万人の農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者がおり、そのほとんどは建設業か製造業に従事しているといわれている。仕事があれば同じ地域に出稼ぎ労働者が一気に集中するが、仕事が減ればすぐに別の場所に移る。単身赴任の男性が多い農民工が最も好む食べ物の一つがザーサイだ。
 各地のスーパーで70グラムの袋入りのザーサイは約1元(約19円)で売られている。一袋があれば、昼と夜の2回のご飯のおかずにもなるので、収入の少ない農民工にとって有り難い存在となっている。ある都市でのザーサイの消費量が急増すれば、その地域に農民工が殺到し、景気が良くなっていることを意味する。

 直接選挙のない中国では、各地域の経済成長が同地域の指導者の能力を評価する重要な指標になるため、景気が減速すれば、指導者は数字を水増しして報告することが一般的とされ、中央政府は報告された数字が正しいかどうかはなかなか判断できない。

 しかし、各漬け物メーカーが発表している各地のザーサイの売り上げと一緒にみれば、その地域の本当の景気がみえてくるという。数字を大きく発表すると税金が高くなるので漬け物メーカーは数字を水増しして発表することは考えにくいからだ。重慶市にある大手漬け物メーカーの数字では、2011年の広東省のザーサイの売り上げが劇減し、湖南省で大幅に伸びたため、農民工たちは沿海部から内陸部に移動しているという景気動向を判断できるというわけだ。

 中国メディアによれば、中国共産党の指導者も「ザーサイ指数」を重要な参考指標にしているという。実は地方政府だけではなく、中国の中央政府も同じように統計数字がねつ造している。具体例としてよく挙げられるのは失業率の統計だ。

 胡錦濤政権がスタートした2002年は4・0%だったが、それ以降10年以上にわたり、4・0%から4・3%の間で極めて狭い幅のなかで上下している。国内の経済学者の間で、「永久不滅な4%前半」と揶揄されている。この間、中国ではSARS(新型肝炎)の危機があったほか、北京五輪前の好景気と米国発金融危機後の製造業倒産ラッシュを経験している。上海証券取引所のA株(国内株)の指数は約1000点(2005年12月)から6100点以上(2008年1月)に暴騰したあと、また2200点前後(2013年9月)に戻るなど乱高下している。

 失業率を適正に統計していたら、株価と同じように激しく上下する結果が出るのが自然だが、そうならなかった。中国の政府関係者は「失業率の高い数字が社会不安につながり、低い数字は地方に『景気が良い』という誤ったメッセージを与えてしまうため、4%前半にしている」と説明し、数字を人為的にいじっていることを認めた。

 中国で経済指標のねつ造は毛沢東時代に遡ることができる。1950年代末から60年代初めにかけて最も顕著である。元新華社記者、楊継縄氏の著書『毛沢東 大躍進秘録』(文芸春秋)によれば、河南省のある県の生産大隊は、農地1ムー(中国の土地面積の単位。6・667アール)当たりの作物が1000キロあると報告した途端、翌日に隣の大隊は1700キロと報告し、さらにその翌日、別の大隊は3600キロだと報告した。数字がロケットのように吊り上げられ、その年の中国全国の農村の生産業を合計すると、世界の全農業生産量まで超えてしまったという事態になった。

 周恩来首相(当時)も、各地から報告された数字を信用していなかった。独自の方法でチェックしていたという。当時の北京には水洗トイレがなく、市内のすべてのトイレから回収され糞尿は、馬車やトラックで肥料として農村部に運び出される。周首相は毎日、必ず市外に出る糞尿の量をチェックし、その数字から北京市民が十分に食えているかどうかを判断していたという。

 ザーサイ指数が重要視されているいまの中国は、50年前とあまり進歩していないようだ。