渡邉哲也(経済評論家)

 新年1月4日、中国の株式市場は日本の国家予算規模である70兆円もの資金が失われる大混乱となった。上海証券取引所と深セン証券取引所で構成されるA株(人民元建て)上位300銘柄で構成されるCSI300指数が大暴落し、サーキットブレーカー(緊急取引停止措置)が発動され、全銘柄の売買が終日停止される事態になったのだ。サーキットブレーカーとは、株価が一時的に急落した際などに発動される仕組みであり、語源は電源回路のブレーカーである。つまり、急激な変化が起きた時に、電気(売買)を遮断することで電気回路(株式市場)を守る仕組みである。中国では今年1月から導入されたわけであるが、開始早々発動することになったわけである。中国の場合、5%下落した場合で15分間、7%下落した場合は終日取引が停止されることになっている。
 
 これは市場参加者の動揺などによる狼狽売りや投げ売りを抑制するとともに、プログラム売買などの暴走を防ぐためにある仕組みなのだ。実は現在、市場に参加しているのは人間だけではない。コンピューターも市場参加者であり、これが大暴落の大きな要因になっている。
上海株価の値動きを示す北京の証券会社の電光掲示板。株価下落を示す黄緑色の表示が並んだ=1月7日(共同)
上海株価の値動きを示す北京の証券会社の電光掲示板。株価下落を示す黄緑色の表示が並んだ=1月7日(共同)
 代表格が高頻度取引と言われるものであり、人間とコンピューターの反応時間の差を利用して、売買を繰り返す仕組みである。人間の場合、目で数字を認識しそれを判断し売買を行うのに早くても数秒はかかる。これをコンピューターに即時に判断させ、時間差を利用して数円単位で利益を確定させてゆく仕組みである。しかし、これは市場の大変動時に暴走することが多く、大量の売り注文の発生で株式市場を不安定化させてしまうわけである。サーキットブレーカーはこのような問題への対処として生まれた側面が強い。

 では、1月4日の中国株の場合、どうだったのかということになるわけだが、コンピューターの暴走が主要因ではなく、市場に対する失望売りが暴落を促進した側面が強いといえる。その最大の要因といえるのが、大株主や役員などに対する売買停止処置が切れることに対する対応であったと言われている。昨年7月8日、中国当局は株価の暴落を受けて、5%以上保有する大株主と会社役員などに対して、半年間の売買禁止処置を決めた。この期限が来るのが1月8日であり、期限到来を待って売られるという予測で他の投資家が一気に株を売りに出したためと考えられている。

 市場原理というのは単純であり、売りが増えれば価格は下落し、買いが増えれば価格は上昇する。そして、市場は売りと買いが自由にできることで適正な価格が導き出される仕組みなのだが、中国の場合、株価を維持するために「売り」を強く規制してきたわけである。このため、大きく歪んだ市場が形成されていたのである。今回の暴落はこの反動の側面が強い。

 また、政治的リスクも暴落を後押ししたと言われている。1月2日、中国は南シナ海の人工島への試験飛行を開始した。それに対して、周辺国や米国は猛反発しており、これが戦争リスクを高く引き上げたのであった。ご存知のように米国は昨年10月27日から航行の自由作戦を開始し、中国とは軍事的対立下にある。このような情況で中国が軍事拡大を続けたことで、周辺国との衝突や金融制裁などのリスクが高まったのだ。特に外国人や在外投資家はこのようなリスクに敏感であり、中国市場からの離脱が進んだ側面もあるのだろう。