昨年7月に発売され、異例のベストセラーになった憲法学の入門書がある。九州大学法学部の南野森教授と、AKB48メンバーで「日本国憲法の暗唱」という変わった特技を持つ内山奈月さんの共著、『憲法主義』だ。今、集団的自衛権の是非などを巡り、憲法に関心が高まっている。そこで今回、憲法に関する講演や執筆活動を数多く行なう弁護士の伊藤真氏を内山さんが訪ね、今知っておきたい日本国憲法の論点について話し合ってもらった。
<取材・構成=鈴木初日 写真撮影=まるやゆういち>

日本国憲法を趣味で暗唱していたアイドル

──内山さん、今日はいつになく緊張しているようですが。

内山 はい。すごく緊張しています。

伊藤 どうしてですか?

内山 実は、私の大学の友達が何人も伊藤塾に通っているんです。みんな真剣に、司法試験合格を目指しています。だから、私の高校の同級生だと「大学でサークルに入っていないのは、伊藤塾のメンバーか、AKB48(の私)」っていう感じなんです。

伊藤 それはありがたい。キャッチコピーに使わせてほしいくらいです(笑)。

内山 だから、「いつも友達が話している、あの伊藤先生とお話できる」と思って、緊張しています。

──今回、文庫化された『憲法主義』で、内山さんは憲法についてはじめて本格的に学んだわけですが、どんな変化がありましたか?

内山 『憲法主義』のお仕事をいただく以前は、憲法の暗唱は趣味でやっていただけだったんです。

伊藤 趣味で?

内山 母の教育方針で、小さいころから『方丈記』や『おくのほそ道』のような名文を暗唱する習慣があったんです。日本国憲法は、高校の公民の授業がきっかけでした。でも当時は内容に興味があったわけではなくて。

伊藤 南野先生の講義を受けて、条文の背後にある人々の思い、憲法ができてきた歴史を知ることで、より思いを込めて読めるようになったんじゃないですか?

内山 はい。憲法って、国のあり方を決めている、日本の政治の中心にあるものだと思うんです。一言一句が私たちの「国のかたち」を決めているものだなと思ったら、すごく身近なものに感じられて、学んでいて楽しくなってきたたんです。大きな存在でありながら、一言一句考えて作られている繊細な面もあって。おもしろくて素敵だなって。

伊藤 憲法が面白いと言う人はなかなかいないですよ。素敵だ、と言う人はもっといないでしょう。その感性が素晴らしい。好きな条文はありますか?

内山 平等権の14条、あとは25条の生存権の条文ですね。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。

伊藤 実は25条って、マッカーサー草案にはなかったんだよね。

内山 そうなんですか?

伊藤 日本人の意思で、国会で無理やり押し込んだんです。すごいことだよね。恩恵や助け合いとか絆に頼るのではなく、すべての国民が健康で文化的な生活を送る権利を持っている、と言っているわけですから。

内山 伊藤先生は、どの条文が特に大切だと思われますか?

伊藤 私は、13条だと思っています。「すべて国民は、個人として尊重される」と書いてある。昔は、個人よりも日本という国が大切で、それによって国民が戦争に駆り立てられてしまったこともありました。今は国のために個人があるんじゃなく、個人のために国がある。一人ひとりが大切。私はこれが一番好きだし、大切な条文だと思っています。