大場大(東京オンコロジークリニック院長)

(大場大『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』より)

がんの正しい治療を選ぶための基礎知識


 がん保険商品の説明などでしばしば目にする「先端医療」や「先進医療」という言葉の意味について、みなさんはどれほど正確に理解されているでしょうか。「先端」や「先進」という言葉のもつ響きや、保険の効かない高額治療であるということから、何やらミラクルを引き起こす「ハイグレード治療」というイメージが誤って蔓延しているようです。

 そこで、「正しい治療とは何か」という点について、一般の読者の方でも最低限知っておくべき(にもかかわらず、あまりにも知られていない)基礎知識について解説していきます。

 冒頭に挙げた「先端医療」「先進医療」の説明の前に、まずは保険診療枠で行われている「標準治療」の定義について考えていきましょう。

「標準治療」という名の最善治療


 「標準治療」の意味をまだまだ誤解している方が多いようです。じつは、車の「標準」装備などといった言葉で使用されるような「平均、普通レベル」という意味では決してありません。例えば、スティーブ・ジョブズ氏ですらも、膵臓由来の悪性腫瘍(正式には膵内分泌腫瘍)の治療においては、当初は様々な民間療法に陶酔してしまったようなのですが、病気の悪化にともなって結果的には「標準治療」のもとに戻ってきたそうです。
 すなわち、「標準治療」とは「世界中どこの先進国であっても通用する、推奨レベルのもっとも高い治療」のことを指します。安全で有効性が確認されているベストな治療であるからこそ、誰も知らない秘密のものにしておく必要はありません。世に広く標準化されることで、同じ病気を抱える世界中の患者さんに等しく恩恵を与えることが期待される、いわば「最善治療」のことを指すのです。

 ただし、「標準治療」とはいっても、例えば米国ではこの標準治療を受けるだけで、非常に高額な治療費が請求されるのです。経済的な理由のために、受けたくても「標準治療」を受けることができない患者さんは、じつはたくさんいらっしゃいます。高額な治療費用が「副作用」のひとつとして考えられているくらいです。

 しかし、日本では国民皆保険制度で保障されている「高額療養費」の申請によって、一定の自己負担金しか支払わなくても、みなが等しくそれを受けることができます。そのせいなのか、「標準治療」の本来の価値が正当に評価されていないようにもみえます。

 ある意味、当たり前に享受できる治療になっているために、「先端医療」や「先進医療」といった何かキラキラしたイメージに心惹かれてしまう人間の性のようなものがあるのかもしれません。