「高額=レベルの高い治療」という大いなる勘違い


 そもそも、このような報道バイアスは、本来は高額である「標準治療」が、日本では特別安価で当たり前のように受けることができる「慣れ」に対する反動から発生しているともいえるでしょう。高いお金を支払うのだから、先端や先進のようなキラキラした冠がついていればきっとレベルの高い治療なのだろうと思われることは、人情としてよく理解できます。

 しかし実態は、海のモノか山のモノかもわからないような商品がたくさん紛れ込んでいる、ということです。

 今や、そのような冠のついた詐欺まがい治療を扱うクリニックの開設が全国何百カ所も相次いでいるそうです。これは、世界中の先進国を見渡してもこの国ならではの「医学(サイエンス)を理解できない」恥ずべき特異現象だといえます。しかしそうはいっても、それだけの需要があるからこそ成り立っているわけです。もしかしたら、行政が厳格に取り締まりのできない何かウラでもあるのでは、とも勘ぐりたくもなってしまいます。

本当に切らずに治せるのか?「粒子線治療」


 ここで、耳にしたことがある方が多いであろう「重粒子線」または「陽子線」治療という先進医療についても、少し言及してみます。

 現在の放射線治療は昔のものと明らかに様変わりしました。放射線治療装置やコンピューター技術の革新にともなって、その学問は確実に進歩しているのは本当です。治療する標的周囲にある臓器への放射線障害をなるべく減らしながら、がん病巣だけにできるだけ的を絞ってピンポイント照射できる技術力などもそうです。前立腺がんや、頭頸部がん、脳腫瘍などには過去には難しかった恩恵が受けられるようになっています。そのような中、放射線とは異なるエネルギーをもった重粒子や陽子を用いた治療が「先進医療」として位置づけられ、多くの国民の関心が、体にストレスを与えないハイテク治療に向いているのは確かでしょう。

 しかし、従来の放射線治療を凌駕することを示した検証データはまだどこにも存在していません。まだまだ臨床研究段階レベルのいわばテスト最中の治療であり、対象を明確にして慎重な取扱いとするべきなのです。ところが、この「先進医療」を実施する装置がいたるところに設置され、各生命保険会社が、それら「先進医療」などもカバーできる保険商品を盛んに売り出していることも相まってか、まるで「万能治療」のような目に余る宣伝が見受けられることが少なくありません。

 これらは、あくまでも従来の放射線治療枠の代替という位置づけであるにもかかわらず、本来のあるべき標準治療体系までも覆すような「切らずに治す」というメッセージを平気で言い切ってしまうことは大きな問題です。そのような実態以上の宣伝が社会に向けて大々的に発信され、そこに「先進医療」という何やら立派な冠がついているがゆえに、100万円を超えるような高額な自己負担であっても、すんなり受け入れてしまうのです。