小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)


 日米同盟は、防衛協力の指針(ガイドライン)の改定と平和安全保障法制の成立によってさらに強化される。北朝鮮の核ミサイル開発が進み、中国が強硬な海洋進出を行う中、日米同盟の強化は避けては通れない。だが、米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設問題は、日米同盟の足元を揺るがしかねない状況にある。日本政府と沖縄県の対立が、ついに法廷闘争に持ち込まれたからだ。

沖縄県側に勝ち目はないというのが大方の見方


 普天間移設に必要な辺野古の埋め立ては、2013年12月に仲井眞弘多前知事が公有水面埋立法に基づいて承認した。ところが、14年11月の沖縄県知事選挙で、辺野古移設反対を公約に掲げて仲井眞前知事を破った翁長雄志知事は、「法的瑕疵(かし)がある」として埋め立て承認を取り消した。所管の国土交通大臣は、沖縄防衛局の行政不服審査法に基づく申し出によって翁長知事による承認取り消し効力を停止し、政府は移設工事を続けている。

 今回、埋め立て承認の取り消し撤回を求めた石井啓一国交相の是正指示を沖縄県が拒否すると発表したため、政府は地方自治法に基づき、翁長知事に指示に従うことを命じるよう福岡高等裁判所那覇支部に提訴した。判決は数か月で出る見込みだが、敗訴した側は上告も可能だ。最終的に政府の主張が認められれば、国交相が行政上の強制執行である「代執行」に踏み切り、知事に代わって埋め立て承認の取り消しを撤回する。
普天間基地(Getty Images)
普天間基地(Getty Images)
 12月2日に開かれた第1回口頭弁論で、翁長知事は沖縄の基地負担を国民に問うと訴えた。翁長知事は逆提訴も検討している。だが、仲井眞前知事の埋め立て承認に法的問題はなく、沖縄県側に勝ち目はないというのが大方の見方だ。おそらく、翁長知事もそれを承知の上で政府との対決姿勢を維持しているのだろう。辺野古移設への反対を続けることによって、来年の参議院選挙と沖縄県議会選挙を有利に進め、最終的には2018年に自らの再選につなげることができるからだ。

 就任後、翁長知事は「あらゆる手段」を使って移設を中止させると明言した。その上で、埋め立て承認の妥当性を検証する第三者委員会の設置や、米政府・議会関係者に直接辺野古移設の中止を訴えたるための訪米、沖縄全戦没者追悼式での政府批判など、政治的パフォーマンスを繰り返し、果ては国連人権委員会で米軍施設が集中する沖縄は「差別」されていると訴えた。

 沖縄県議会も、県外土砂を使用した国の辺野古の埋め立てを阻止するため、埋め立てによる外来生物の侵入防止を目的とした県外土砂規制条例案を賛成多数で可決し、知事を側面支援している。翁長知事への支持は県外からも寄せられ、様々な分野の著名人が共同代表を務める「辺野古基金」には3億5000万円以上が集まり、反対する市民運動を支援している。本土からの活動家も加わった辺野古での反対運動は、過激さを増している。平和安全保障法案に関して的外れな批判を繰り返した学生団体SEALDsも、今度は辺野古移設に批判の矛先を向けている。

 このままでは沖縄県知事が辺野古移設反対の先頭に立つ中、移設作業が進むという、日米同盟の維持にとって極めて好ましくない構図が定着してしまう。地元が米軍基地反対の声が強めれば強めるほど、中国や北朝鮮には日米同盟が弱体化していると見えるだろう。中国は尖閣諸島での示威行為を強め、北朝鮮も核ミサイルの恫喝をさらに行えば、日本の安全保障環境は一層厳しくなる。

 代執行訴訟は日本政府が有利だが、他方で沖縄のさらなる反発を招くだろう。代執行後に、どのように沖縄との関係を修復しつつ辺野古移設を進めるかについて考えておくべきだ。