篠原章(評論家・批評.COM主宰)



 宜野湾市長選挙が終わった。沖縄の選挙では、事前運動や戸別訪問など東京などからすると信じられないほどの選挙違反が横行するのが常だが、今回もその例に漏れず、選挙違反のオンパレードだった。両派とも「あちらがやるから、こちらもやる。やらなかったら負ける」という姿勢だから、どうしてもエスカレートしてしまう。自分たちの行為が違法であるとの認識も薄い。選挙管理委員会や警察にも違反の通報はある。が、多くは対立候補支持者の通報だから、迂闊に動けないという。誰の通報だろうが、選管も警察も動くべきだと思うが、彼らもまた選挙違反に慣れっこになって、動きが鈍いのかもしれない。通常は選挙が終わっても、たいして摘発もない。

記者会見する沖縄県の翁長雄志知事=2015年12月25日、沖縄県庁
記者会見する沖縄県の翁長雄志知事=2015年12月25日、沖縄県庁
 お節介はあまりしたくないが、「公正な選挙」という基本的なところから正常化しないと、沖縄の政治風土はいつまでたってもよくならないと思う。どんなに候補者が高潔で優れた能力を備えていたとしても、違法な選挙を闘い、利権を争う政治風土のなかで、やがてその高潔さや能力を失い、政治的駆け引きだけに長けた政治家が生まれてしまう。不幸なことだと思う。

 今回の選挙でいちばん驚いたのは、1月20日に放映されたNHK沖縄放送局のニュース番組のなかで、志村恵一郎候補と志村候補を応援する翁長雄志沖縄県知事が、一緒に街頭で選挙運動する様子が映しだされ、カメラの前で堂々と選挙違反の戸別訪問を行っていた一件だ。NHKの記者やディレクターが、翁長知事らの行為を選挙違反と承知で編集しなかったのか、それとも沖縄ではごく当たり前の光景だから、選挙違反とは思わずに放映したのかは知らないが(おそらく後者だろう)、「日本には民主主義はない」と国連人権理事会(昨年9月21日)で世界に向けて朗々と訴えた翁長知事が、民主主義の基本である選挙を汚している現場を県民に知らしめてしまったのである。

 志村陣営の伊波洋一元宜野湾市長は、「街宣活動の途中に知り合いのところに顔を出すことはよくあり、違法なものではないと理解している」とのコメントを出している(1月23日付『産経新聞』)。沖縄ではこれを選挙違反といわないのかもしれないが、少なくとも東京では選挙違反だ。

 選挙運動中に知り合いの家を見つけて、玄関先で「よろしく」という行為が選挙違反とされるのは理不尽だ、と言いたいとしても、公職選挙法には「戸別訪問はダメ」と厳しく定められている。規定が気に入らないからといって、法を破っていいことにはならない。しかも、法を破ったのは、「政府に果敢に闘っている」として注目を集めている翁長知事だ。現代沖縄を象徴する「英雄」が、無自覚に法を破っているとしたら、県民と国民を愚弄するものではないか。