森本敏(拓殖大学特任教授)


 19年前の1996年4月、日米間で普天間基地返還を合意したのは、当時の沖縄がそれを最優先として要望したからである。それから代替施設の場所が検討され、岸本建男市長(当時)が名護市辺野古に受け入れを容認するという苦渋の決断を表明したのは99年末のことである。

 その後、2006年に日米間で合意されたV字型施設に基づいて協議が行われ、環境影響評価も実施された。鳩山由紀夫政権になって手続きは一時、停滞したが、13年12月に仲井真弘多前知事が代替施設工事を承認するまで一貫して手続きはすべて法律に基づいて行われている。

あらゆる議論が尽くされた


 その手続きについて沖縄県職員を含め法的な瑕疵(かし)があったとは思えない。県職員の合法的手続きに従って行われた検討作業の結果をふまえて前県知事が工事を承認した際、県知事の承認のみに法的瑕疵があったとも考えにくい。

 その間、普天間基地問題はあらゆる議論が尽くされ結論を得たのである。政府は沖縄の意見にも十分、耳を傾けてその実現にできる限りの努力を行ってきた。翁長雄志知事は賛成だった時期もある。

 今は工事を迅速に実行し、普天間基地返還の早期実現を期するのみである。それが日米同盟間の固い約束であり、沖縄の当初からの要望を実現する手立てでもあり、普天間基地の固定化を防ぐ唯一有効な解決策でもある。政府は仮に難題が起こっても断固として、この工事計画を推進することとしており、その決心に揺るぎはない。

 辺野古施設の計画は、長い時間と協議を経て周辺住民の安全と騒音と環境に配慮し、航空機の離陸と着陸方向を主として海上で行うよう設計されている。これ以上、施設を沖合に出すと埋め立て面積が増え環境上問題があり、経費もかかる。これ以上陸地に近くすると、騒音や安全性に問題が出る。

沖縄・普天間基地基地移設受け入れ表明を行う岸本建男名護市長
沖縄・普天間基地基地移設受け入れ表明を行う岸本建男名護市長
 この施設を使う航空機は海上に向かって離陸し、海上から進入するように設定されており、住民の意向を十分に踏まえた安全設計になっている。しかも、普天間基地の返還を実現するためにはできる限り早期に工事が終了するよう地元の協力も頂く必要がある。代替施設の埋め立て面積は普天間基地の3分の1になり、沖縄の負担軽減に大きく貢献する。

安全保障は国の重大な任務


 政府は普天間基地だけでなく嘉手納以南の土地・施設の返還や訓練移転、日米環境特別協定の締結に努力し、沖縄の負担軽減のために絶えざる努力を進めている。経済振興予算についても他県と比べて十分、配慮して対応している。

 確かに普天間代替施設建設に反対する民意が沖縄にあることは理解する。しかし、今の日本が置かれている安全保障環境をみると、かつて米軍がフィリピン基地から1990年代初めに撤退したあと、中国が力の空白を埋めるように南シナ海に入りフィリピンの占有していた島嶼(とうしょ)を力で占拠したことを忘れるわけにはいかない。

 西沙諸島における中国との海上戦闘で負けたベトナムが西沙諸島から追い出されて南沙諸島に転進したことも力による現状変更の例である。一たび他国に占有された領土を取り戻すのには、どれだけの努力と犠牲が必要になるかは歴史と事実が証明するところだ。

 われわれは在沖米軍と日本の防衛力を組み合わせて、対応力と抑止力を機能させ南西方面の領土保全を確保しようと努力している。国家安全保障という仕事は国の重要な任務であり、地方自治体の第一義的な任務でも義務でもない。民意は理解するが国家の安全保障政策は国に任せるべきだ。

知事は思い違いをしていないか


 沖縄は日本の最も重要な地域の一つであり、県民にも日本全体の安全保障という観点から、在沖米軍の機能と役割を受けとめてほしいと思う。このまま事態が進むと普天間基地問題をめぐって政府と県の間で法的措置に関する攻防が続き、その後は長い期間をかけた法廷闘争になる可能性もある。

 日本国内で見苦しい争いをやっているのを喜んで見ている隣国があろう。これが日本の将来や同盟関係や日本の国益にとってどのような利益になるというのか。日本が国内を発展させ国際社会に向かって一層、重要な役割を果たし、そのような日本を世界の人々に示すべき時に国連人権理事会で訴えるなどという手段が、日本への評価や日本人らしさを世界に高らしめることになるのか。

 これは安全保障政策問題であり人権問題ではない。われわれは沖縄を差別したことはない。私にも沖縄に友人がいるが、差別観を持って接したり特別扱いをしたりしたことはない。それは誰とて同じであろう。日本人の良さは平和と繁栄を求める穏健なバランス感覚を大切にしている点にある。

 この際、改めて静かな多数の日本人(サイレントマジョリティー)に聞いてみたい。普天間基地代替施設は将来にわたる日本の安全保障上、ぜひとも実現すべき事業である。翁長知事は少し思い違いをしておられるのではないか。
(もりもと さとし)