碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 NHKの連続テレビ小説(通称、朝ドラ)『あさが来た』が好調、いや絶好調だ。昨年10月のスタート時から現在まで、平均視聴率は連続して20%台をキープ。11月20日には番組史上最高の25%を記録した。視聴率だけでなく、新聞や雑誌などメディアで取り上げられる頻度も高く、雪だるま式に支持層が広がっている。そんな『あさが来た』の絶好調の理由を探ってみたい。

NHK朝ドラの基本


 朝ドラが開始されたのは1961年だ。すでに55年の長い歴史をもつ。第1作は獅子文六の小説を原作とする『娘と私』だった。66年に樫山文枝が主演した『おはなはん』で平均視聴率が45%を超え、視聴者の間に完全に定着した。

 当初、一つのドラマを1年間流す通年放送だったが、74年の『鳩子の海』以降は渋谷のNHK東京放送局と大阪放送局が半年交代で制作を担当するようになり、現在に至っている。途中、唯一の例外は、平均視聴率52.6%(最高視聴率62.9%)というメガヒットとなった『おしん』(83~84年)で、全297話の通年放送だった。
NHK連続テレビ小説「おしん」スタジオ収録が開始。左から泉ピン子、乙羽信子、小林綾子、田中裕子、伊東四朗=1983年2月14日、東京・渋谷のNHK
 歴代のNHK朝ドラには、いくつかの共通点がある。その第1は、当然のことながら、主人公が女性であることだ。少女が大人になり、仕事や恋愛、結婚などを経験していくのがパターンである。幼少時から晩年までを描いた、いわゆる「一代記」の形をとったものも多く、『おしん』では、その生涯を年齢の異なる複数の女優(小林綾子、田中裕子、音羽信子)がリレーで演じていた。また朝ドラには、女性の自立をテーマとした「職業ドラマ」という側面もあり、全体的には、生真面目なヒロインの「成長物語」という内容が一般的だ。


「あさが来た」のポイント


 『あさが来た』の主人公は、京都の豪商の家に、次女として生まれた今井あさ(波瑠)。大阪に嫁いだ後、炭鉱、銀行、生命保険といった事業を起こし、日本で初めてとなる女子大学の設立にも携わる。

 このドラマ、物語としてのポイントは2つある。1つ目は、あさが実在の人物をモデルとしていることだ。“明治の女傑”といわれた実業家・広岡浅子である。2番目は、物語の背景が幕末から明治という時代であることだろう。

 実在の人物がヒロインのモデルとなるのは、最近の朝ドラでは珍しくない。2010年の『ゲゲゲの女房』(漫画家・水木しげるの妻)、その翌年の『カーネーション』(デザイナーのコシノ3姉妹の母)、14年の『花子とアン』(翻訳家 村岡花子)などだ。いずれも現代の話ではなく、近い過去がドラマの舞台となっていた。今回の『あさが来た』も、これらの作品が好評だったことを踏まえて企画・制作されている。とはいえ、幕末から話が始まるという設定は大胆で、冒険でもあったはずだ。

 この“過去の実在の人物”という選択は、逆に言えば、近年“現在の架空の人物”で制作された朝ドラが、視聴者の気持ちをあまり捉えてこなかったことを示している。視聴者側としては、ヒロインが人間的にあまり魅力的とも思えない架空の人物の場合、彼女の個人的な“さまよい”や“試行錯誤”や“自分探し”に毎日つき合ってもいられない、ということだ。