渡部昇一(上智大学名誉教授)


 第二次政権における安倍総理の大きな特徴の一つは、第一次政権時のスローガンであった「戦後レジームからの脱却」という言葉を使わなくなり、まず、アベノミクスと呼ばれるデフレ克服の経済政策を優先したことである。
2015年1月19日、エルサレムのホロコースト記念館で
平和貢献への決意を述べる安倍首相
2015年1月19日、エルサレムのホロコースト記念館で 平和貢献への決意を述べる安倍首相
 これは、安倍総理が戦後体制の変革や憲法改正に消極的になったわけではなく、野に下っている間にじっくり考えた結果であると思う。戦後の国際秩序はアメリカ主導で行われたものであるから、「戦後レジームからの脱却」を性急に推し進めると、アメリカの反発を招くことに気がついたのだろう。現に、アメリカ政府のなかには安倍総理を「リビジョニスト(歴史修正主義者)」と呼んで批判する者もいる。

 村山談話などを言下に否定すると中国と韓国が大騒ぎするが、現在のオバマ政権下のアメリカは中国に対して非常に弱腰で、とにかく事を荒立てたくない、問題を起こしたくないという臆病さが顕著に見られる。尖閣問題にしても、「尖閣列島は日本の施政権下にあり、安保条約の範囲内にある」とまでは言うものの、日本領であるとまでは決して言わない。

 そういうオバマの臆病さを安倍総理は見てとったのだと思う。それでも、アメリカの大統領であるオバマの言うことには応じなければならない。しかし一方で、米軍関係者たちはオバマとは考え方が違うことも十分に観察してわかっているようだ。オバマが大統領になってから軍の最高司令官が数人退任しているのも、オバマと軍とが相容れない関係にあるからだろう。それで安倍総理は軍との話を重要視しながら政策を進めているような気がする。

 だから、もどかしく思う人もいるかもしれないが、それは戦後レジームから脱し、日本のあるべき姿を取り戻したいけれども、それに対してアメリカがどう反応するかということを慎重に見きわめているからだと考えなければいけない。

 こうした対米関係のジレンマを解決する手がかりが一つあると思う。それは、終戦からまだ間もない時期に行われたマッカーサーの証言である。
 その証言内容は、まさにマッカーサーこそリビジョニストであったことを明確に示しているのだ。