八幡和郎(徳島文理大教授、評論家)

 週刊文春のスクープ記事をきっかけに辞任に追い込まれた甘利明経済再生相ですが、このような政治家をめぐる金銭授受疑惑の場合、一般的にその要因は複合的であるケースが多く、一つの原因で起こることはめったにないと思います。

 今回の件で言えば、まず甘利さん自身が2013年に舌がんを患い、健康だったときとは異なり、事務所や秘書に対する監督が甘くなった可能性があります。さらに、文春に告発した人物が、そもそも悪意を持って甘利氏側を引っ掛けようとしたと考えるのが普通の感覚ではないでしょうか。

 報道で出ている以上に詳しいことはよく知りませんが、あそこまで周到に準備していたという状況を考えると、甘利氏側に「謝礼」をしてきたにもかかわらず、彼らが結果として何も動いてくれなかったことへの逆恨みで表沙汰にしたという単純な動機だけではなさそうです。もしかすると、既に報じられている通り、甘利氏の公設秘書と女絡みでトラブルだってあったのかもしれない。一連の報道では公設秘書とフィリピン・パブによく行ったとも話していましたよね。
甘利明経済再生相の辞任のニュースを伝える街頭ビジョン=1月28日午後6時、大阪市北区(柿平博文撮影)
 他に考えられることとすれば、この秘書自身も甘利氏が病に倒れたことで自分の将来を悲観しただけでなく、甘利氏の存在を無意識のうちに見下すようになっていたのかもしれません。病を患っていなければ、甘利氏も注意深く秘書を監視できていたでしょうし、こんなスキャンダルに発展することはなかったのではないでしょうか。

 政治家が金銭をめぐるスキャンダルに巻き込まれるケースはこれまでもよくありましたが、その原因の一端として特に多いのが秘書に裏切られるパターンです。政治家は一人で悪さをすることは少なく、取り巻きの秘書がまったく知らないなんてことはまず考えられません。つまり、秘書に何か秘密をベラベラしゃべられたらアウトの政治家なんて、今さら言うまでもないですが、ほとんどがそうだと思います。かなりの大物政治家だって、スキャンダルが表面化したケースは、秘書だけじゃなく家族にまで裏切られるというパターンが多いですよね。

 例えば、ロッキード事件。田中角栄元首相の榎本敏夫秘書がその典型ですよね。世間がロッキード一色で、いよいよ田中氏が逮捕されるという直前だったと記憶していますが、通産省(現・経済産業省)に入省して間もない私に「田中角栄が危ないぞ。でも、別の実力者は大丈夫だろう」と耳打ちしてきた人がいました。理由を聞くと、当時榎本秘書と児玉誉士夫の秘書だった太刀川恒夫氏が逮捕され、検察の事情聴取を受けていたんですが、その人は「太刀川はアウトローで自供したら殺されるから口を割らない。でも榎本はカタギだから自供しても殺されない」と言ったんです。カタギは身柄を拘束されて取り調べを受けると弱いですから、榎本秘書は捜査段階で現金授受をあっさり認めてしまったわけです。検察の取り調べはものすごく厳しいでしょうから、普段言わないこともベラベラしゃべっちゃったわけです。

 先ほどもお話したように秘書だけではなく、家族に裏切られて失脚する場合もあります。みなさんも記憶に新しいと思いますが、小沢一郎氏の政治生命をほぼ終わらせたのは、小沢氏の元妻、和子さんですよね。小沢氏の支援者に向けて書いたとされる「離縁状」でさえ週刊誌に公開されましたが、痴情のもつれがこじれてスキャンダルが明るみになるケースなんて珍しくはありません。