屋山太郎(政治評論家)

 はっきり言って、今回の週刊文春のやり方は感心しない。甘利氏の疑惑を告発した「ネタ元」とタッグを組んで写真を撮ったり、録音したりするとか、はじめから甘利氏を罠に嵌めて「事件」にしてやろうという魂胆が見え見えだ。こんなのは、オーソドックスな雑誌記者のやり方じゃないし、何度も言うけど文春らしくない。

 もちろん、安倍政権の最重要閣僚を辞任に追い込むぐらいの大スクープなんだけど、なぜかスカッとしない。それは彼らが真っ向勝負をしていないからに他ならない。こんな「禁じ手」まで使ってしまうようでは、もうジャーナリズムなんてあったもんじゃない。かつて、立花隆が月刊誌「文藝春秋」で田中角栄の金脈を暴いたときは、誰もが文句のつけようのない完璧な「調査報道」だった。私はね、どうせ政治家のスキャンダルを暴くんなら、ああいうスカッとした調査報道をしてもらいたいと常々思っている。「天下の文春」には特にそれを期待していたしね。
甘利氏の収賄疑惑告発第2弾を報じた週刊文春 2月4日号
 それはさておき、今回のスキャンダルは、野党にとってはおいしいネタではあったよね。国会で安倍政権を責める材料が何もないだろうから、本筋のTPP交渉とかで議論もできないだろうし、甘利さんのスキャンダルをことさら追及していた。もうこうなるときりがなくなる。ところが、甘利さんは弁護士に調査を依頼して、あっさり辞任を表明した。ぱっと身を引いちゃったもんだから、野党にしてみれば肩透かしをくらったみたいなもんだね。こうなると、野党の方がひっくり返ってしまう。いくら野党が反発したところで、疑惑の当事者が辞めちゃったものは仕方がないし、国会に呼ぶわけにだっていかない。そう考えると、甘利さんはうまく切り抜けたと思う。

 甘利さんはTPP交渉を推し進めたが、もっと大きな視野で見ればTPPによって日本の市場は確実に増える。例えば、1955年に日本はGATT(関税及び貿易に関する一般協定)に加盟したが、その時は市場が広がるといって日本中が歓迎した。これは私の個人的な見解だけど、今回のTPPによって、世界のGDPの4割を占める巨大な経済圏ができるっていうのに「反対」というのは違うと思う。甘利さんはフロマン(米通商代表部代表)に怒鳴られたこともあったが、アベノミクスの柱でもあるし、国のためとの思いで必死になってやっていた。

 私が記憶している限り、今回のような「禁じ手」を使ったスキャンダルは過去になかったのではないか。現金を手渡す時も用意周到に記者が録音や撮影をするなんて、こんな露骨なやり方はこれまでなかった。スキャンダルが発覚した当初、自民党内でも「ヤラセではないか?」という疑念の声が上がったのも無理はない。