児玉克哉(社会貢献推進機構理事長)

 中国が世界の工場となり得た一つの要因は豊富な石炭にありました。安価な石炭は経済的にモノづくりをするのに適しており、巨額の資金が石炭産業に注ぎ込まれ、またそれはその産業自体にも大きな利益をもたらしましたし、他の産業にも相乗的な効果を与えました。2000年から2012~3年までは原油価格は急激に上がりました。

 WTIでの1バレルあたりの価格をみてみましょう。1998年の原油価格は14.42ドルだったのが、2013年には97.93ドルにまで上がっています。実に7倍近くにまで跳ね上がったのです。これが資源国の経済を引き上げたことも確かです。日本などは高くなった原油価格にも足を引っ張られました。原油価格の高騰に伴って石炭価格も上がりました。1999年に1トンあたり25.89ドルだったのが、2009年には136.18ドル、2011年には130.12ドルとなっています。5倍を超える値上がりです。

 中国は自国で石炭が取れますから、石炭開発に取り組みます。石炭は環境破壊をしやすいエネルギーですが、環境よりも経済の論理が勝ち、石炭大国となったのです。
 2014年の石炭生産量の順位を見てみましょう。単位は1000トンです。

1.中国 3,874,000
2.アメリカ 906,868
3.インド 643,976
4.オーストラリア 491,479
5.インドネシア 458,000
32.日本 1,308  

 中国は2位のアメリカの4倍以上の生産量なのです。日本と比較すると実に3000倍ですね。比べ物にならない状態です。

 中国は原油価格の高騰のもとに起こった石炭価格の高騰で、一種の石炭バブル繁栄を得たのです。安い労働力、安いエネルギー、安い資源をもとに、海外からの豊富な資金が入り、世界の工場となりました。

 しかし、アメリカのシェールガス革命などもあり、原油価格が落ち込みます。それにつられて、石炭価格も下落。石炭はおいしい産業ではなくなってきています。

1.石炭価格の下落
 原油価格は、2016年1月16日現在、29.70ドルです。2013年の97.93ドルから比較すると3分の1以下です。驚く程の低価格となりました。015年12月現在で、石炭は1トン56.04ドルです。2009年の136.18ドルからすると、約4割の価格になっています。消費量も落ちていますから、石炭産業はかなりの痛手を受けています。これからさらに価格は低下すると予想されます。

2.環境問題による石炭離れ
 環境問題も石炭には逆風です。地球温暖化などにおいても石炭は槍玉に挙げられるエネルギー源です。それとともに、中国ではPM2.5問題が顕在化しています。北京をはじめ大都市ではスモッグが社会問題にもなっています。この主要な原因としてあげられるのが石炭です。これから中国でも世界でも石炭の活用は控える方向に進みます。原油価格の低迷で石炭価格も下がる中、消費量も減るということになります。売上は大きく下がることになり、石炭関連企業の倒産などが起きつつあります。大投資をして石炭の生産能力はあがりました。これが過剰生産を引き起こし、身動きができない状態なのです。

3.大量失業の可能性
 石炭産業は、かなり労働集約的な産業です。かなりの数の雇用があります。この産業の衰退は、地域によっては決定的な意味を持ちます。特定の地域で大きな失業が生まれたとき、治安などの問題もでてきます。地域の崩壊にもつながるものです。これは日本でも炭鉱の町が衰退した時に経験したものです。中国はさらに大規模にこれが起こる可能性が高いのです。

4.シャドーバンキングの問題
 中国の石炭産業では国の資金も大量に投じられましたが、民間での事業も多く、シャドーバンキングに頼ったものも少なくありません。相当に高い利率をうたい、資金を集め、その資金で運用していました。石炭産業は好調でしたから問題もわからなかったのですが、産業自体が不調になると、一気に問題が顕在化します。シャドーバンキングシステムが崩壊する可能性があるのです。その引き金は石炭産業と見られています。

5.腐敗
 石炭産業が大きな利益を得ていたので、賄賂も相当に行われていたようです。中国山西省呂梁市の張中生・元副市長は、当局の調査を受けて収賄事件として逮捕されました。6億元(約112億円)を超える賄賂を受け取っていたといわれます。山西省は有数の石炭産地です。張元副市長は呂梁市の石炭事業を担当しており、石炭の業者から多額の賄賂を受けていたとされます。おそらくこれは氷山の一角でしょう。状況が一変した今、こうした腐敗が顕在化しつつあります。

 このまま行けば、中国の石炭は、中国経済の崩壊の火薬にもなりかねない状態です。10年~20年先を見越した新たな産業政策が必要なのでしょう。石炭産業の行方をみることは、中国経済の今後を占う上でも重要です。
(「児玉克哉のブログ『希望開発』」より2016年1月16日分を転載)