田村秀男(産経新聞特別記者)

異形の党支配経済、延命は決定的!?


 国際通貨基金(IMF)は11月末の理事会で、中国の人民元を来年秋から特別引き出し権(SDR)の構成通貨(現在はドル、ユーロ、円、ポンド)への追加を決める。元は国際通貨としてのお墨付きを得ることになるが、単なる経済事案ではない。通貨とは基軸通貨ドルが示すように、国家そのものであり、経済のみならず政治・外交・軍事すべてを根底から支え、運営を誤れば揺るがす。

 中国の場合、元は共産党通貨であり、それを世界で通用させることは、破綻しかけた共産党指令経済を延命させることはもとより、対外的な膨張を助長させる。日本にとっては脅威の増大を意味する。
 共産党中央が指令する中国経済は事実上マイナス成長に落ち込んでいる。習近平党総書記・国家主席の中国は手負いの巨大怪物も同然だが、愚かではない。習氏は米英が仕切る国際金融市場の総元締め、国際通貨基金(IMF、本部ワシントン)に元を国際準備通貨として認定させる道を付けた。

 現在の代表的な国際通貨はドル、ユーロ、円、ポンドであり、IMFの国際準備通貨単位である特別引き出し権(SDR)を構成している。SDRは帳簿上で記載されるだけで、流通するわけではないが、各国中央銀行は通常、SDR構成通貨建ての金融資産を準備通貨として保有するので、民間はSDRを構成する通貨での支払いや決済に安心して応じる。

 これまでの人民元は、韓国のウォンや東南アジア各国の通貨同様、ローカル通貨であり、これらの各国は外貨準備を積み上げながら、外貨の流出を防ぐと同時に、外資が流入するように金融、財政政策を調整しなければならない。

 元の国際通貨化が党支配経済存続の鍵になるという切実な事情は2つある。現在の中国は、外貨の流入が細り、資本の流出に加速がかかり、外貨準備が急速に減少している。もう一つ、元資金を使った対外融資や投資を増やす対外戦略上の必要性である。中国は固定資産投資主導による高成長路線が限界に来ており、このままでは経済崩壊してしまいかねない。それを打開するためには、国有企業の再編成など合理化・競争力強化策が必要だが、党幹部の既得権益調整に手間取るので短期間では実現不可能だ。手っ取り早いのは、対外投資を増やして、輸出を増強することで成長率を引き上げる方法だ。その決め手とするのが、中国とユーラシア大陸及び東南アジア、インド、中近東・アフリカを結ぶ陸と海の「一帯一路」のインフラ・ネットワーク整備構想である。

 習近平政権はその投融資を行うための基金や国際開発金融機関を相次いで発足させようとしている。代表例が、年内設立をめざす多国間のアジアインフラ投資銀行(AIIB、本部北京)である。AIIBは国際金融市場でドルなど外貨を調達してインフラ資金とする計画で、英独仏など欧州や韓国、東南アジア、ロシアなどが参加したが、世界最大の債権国日本と国際金融シェアが最大の米国が参加しないこともあって、AIIBの信用力は弱い。このために、国際金融市場での長期で低利が必要となるインフラ資金の調達は困難だ。それを打開するためには、中国が元資金を提供するしかない。しかし、元がローカル通貨である以上、元による決済は限られる。翻って、元が国際通貨になれば、その障害は少なくなる。

 元が国際通貨になるためには、ドル、ユーロ、円、ポンドと同様、SDR構成通貨への組み込みをIMF理事会が認定することが前提となる。IMF理事会審議の鍵を握るのは英国など欧州と、IMFの唯一の拒否権保有国米国である。厳密に言うと、SDR認定事項は最重要案件とはみなされず、議決権シェアで7割以上の賛成があれば、米国の拒否権を無効にできるが、SDRの新規発行は米国の賛同が必要だ。したがって米国の同意がないと、元が加わった後のSDRの追加配分に支障が出る。習氏は米欧各国に対し、実利を提示することで、抱き込みを図ってきた。日本は対米追随なので、対日工作の必要はなかった。