[サイバー空間の権力論]


塚越健司 (学習院大学非常勤講師)



ネット上に残る個人情報を削除する権利


 忘れられる権利(Right to be forgotten)を一言で表せば、ネット上に残る過去の個人情報を削除する権利と言える。それらの中には、自らアップした過去の日記や別れた恋人との情報など、自身で管理可能なものもあるが、中には自分では削除できず、またネットに拡散してしまう情報などもある。一度ネットに上がったものは消えることがないものも多く、削除を希望する人も多い。

 欧州ではプライベート情報を管理するための議論が以前から盛んであった。今から20年近く前の1995年、EUは「個人データ保護指令」と呼ばれる個人情報を保護するためのルールを制定した。これらは当時においても高レベルの個人情報保護を約束するものであったが、その後2012年にはデータ保護指令を改定する「データ保護規則案」を提案。2013年に可決し、今後1、2年をかけて成立させる予定である。このデータ保護規則案にこそ、現在話題となっている忘れられる権利が明記されているのだ。

忘れられる権利を認めた
EU司法裁判所の判決


 2014年5月13日、EU司法裁判所はGoogleに対して、Googleを訴えた原告のスペイン人男性の過去の情報を忘れられる権利として認め、彼に関する一部情報を検索結果から削除させる判断を下した。これは2013年に可決された「データ保護規則案」の成立を前に、忘れられる権利をEUが先取りした形になる。
ドミニク・ペローさんが設計した欧州連合司法裁判所=ルクセンブルク
ドミニク・ペローさんが設計した欧州連合司法裁判所=ルクセンブルク
 事件を簡単に説明しよう。このスペイン人男性は、16年前に社会保障費の滞納から自身の不動産が競売にかけられた過去をもつが、現在ではそうした問題は解決されている。だがGoogleで彼の名前を検索すると、現在でも16年前の記事へのリンクが検索トップにでてきてしまう。このことを彼は差し止めるために訴えを起こしたのだった。

 EUの判決は、こうした情報がすでに過去のものかつ現在では不適切だとして、この記事へのリンクを削除するものだ。ちなみに新聞記事自体は削除されず、ウェブには残り続けるという点には注意が必要だ。ただし、Google検索に残らないということは、世界の片隅に投げ捨てられた石ころを手がかりなしに探すようなもの。基本的に関係者以外には彼の記事が参照されることはないだろう。

 このEUの判断の後、5月30日にはGoogleは削除要請フォームを設置した。無論以前からGoogleには著作権侵害やクレジットカード番号等の犯罪にかかわるものなどに対する削除フォームが設置されていたが、EUの判決以後、より強力な個人情報削除に対応した形になる(ちなみに、EUの法に準じた削除フォームは、EU圏の人間にのみ適応される。詳しい削除要請方法は以下がわかりやすい http://gigazine.net/news/20140602-right-to-be-forgotten-tool/)。この削除要請フォームの設置後、一日で12000件を超える要請があった

 いずれにせよ忘れられる権利が今後社会に浸透し、世界中の企業・政府がそれを認めることになれば、リベンジポルノをはじめとした様々なトラブルに対し、世界中で柔軟な対応がなされるであろう。もちろん後々問題になるであろう情報・画像の取り扱いに関しては、これまで以上に注意しなければならないことは言うまでもない。ネットリテラシー教育は、未成年を中心に推進する必要がある。