吉川祐二(元警視庁・麻薬拳銃担当刑事、防犯コンサルタント)

 2014年春、週刊文春で清原和博容疑者が「薬物治療のために入院していた」というスクープが報じられました。彼は記事が出た後、一時公の場から姿を消したことがありましたが、私は「ああ、これは間違いなくやってるな」と直感しました。

 警視庁は文春の報道があったころから、清原容疑者への内偵を進めていたことは間違いありません。しかし、薬物事件とはいっても捜査の流れは普通の事件と何ら変わりがない。今回の件で唯一「違い」があるとすれば、清原容疑者への身辺捜査を進めていることが周囲に漏れてしまうと、すぐにメディアに広まってしまうという捜査側の懸念ではないでしょうか。警察は清原容疑者を24時間体制でマークしていたようですが、行動確認はあくまで逮捕直近の話だと思いますし、捜査員は張り込む場所によってマークの緩急をつけていたと思います。
覚せい剤所持で逮捕された元プロ野球選手・清原和博容疑者の自宅マンション前には、一夜明けても報道陣が詰めかけている=2月3日、東京都港区東麻布(寺河内美奈撮影)
 薬物捜査は、対象の被疑者が覚醒剤(ブツ)を使用し、体内に残ったまま逮捕することが最も重要です。それは決定的な証拠があれば、被疑者を確実に公判請求、つまり起訴できるので、捜査する側にすれば、最も理想的な状況になるわけです。

 それと、捜査員が行動確認する上で最も重要なのは、対象被疑者がいまどんな状態なのかを的確に見極めることです。被疑者は覚せい剤が体内に入っている状態なのか、それとも効果が切れかけているのか、あるいは完全に切れているんじゃないか。もちろん、それを見極めるのは薬物捜査のプロなんですが、これにはどうしても時間がかかります。さらに、その上で対象被疑者がブツを持っているかどうかを狙っているわけです。

 昨夏、清原容疑者本人がテレビのバラエティー番組に出演し、薬物使用について否定したことがありました。このとき、警視庁は清原容疑者の逮捕寸前まで捜査を進めていながら、立件が立ち消えになったとも言われています。真偽のほどは定かではありませんが、もし仮に事実だとすれば、清原容疑者側に捜査の動きを察知され、内偵捜査を進めてもブツが付かないという状況が続き、検挙できなかった可能性があります。もしくは、しばらく泳がせておいて、清原容疑者へのマークが緩んだと思い込ませて隙を与えた上で、決定的な物証をつかんで今回の逮捕に至ったという可能性もあります。いずれにしても、被疑者を現行犯で逮捕した今回の捜査の手法は、最も理想的な流れだったと言えるでしょう。

 覚醒剤事件の捜査では、捜査員が実際に検挙に踏み込む場合、ドアのチャイムを鳴らしたり、ノックをしたりすることなどはありません。捜査対象の自宅ドアの動きをずっと観察して、ドアノブが回ったところで一気に突入します。清原容疑者の自宅マンションに踏み込んだとき、本人は注射器やストローを手に持っていたそうですが、それはあくまで偶然であって、被疑者が覚醒剤を今まさに使う瞬間というか、そんな絶妙のタイミングを狙って、捜査員が検挙するのはやはり難しいでしょう。