岩渕美克(日本大学法学部教授)

 宮崎謙介衆院議員が、配偶者である金子恵美衆院議員の出産を受けて、自ら育児休業制度を利用する旨の発表をして賛否両論、議論を呼んでいる。国会議員が育休をとってもよいのかどうかということである。しかしこの問題の本質は、国会議員の育休だけではない。社会全体の問題として議論しなくてはならない。

 第一の問題は、国会議員や地方議員、いわゆる政治家に関する育児休暇に関する規定がないことである。政治家と言えども家庭生活を営む市民であるから、議員の育児休暇に関する規定があってもおかしくない。むしろ作っておくべきである。それがないということに関して言えば、検討して作るべきであろう。宮崎議員の発言が、そうした契機となるのであれば非常に有用な発言であると言える。たとえば、公務員に関する育児休業法は、国家、地方ともに存在するからである。当然その際に、政治家についても議論すべきであった。したがって、規定がない以上、宮崎議員は育児を理由として国会を欠席するだけのことになる。育児が欠席事由として適当かどうかは本人が判断するしかない。

 第二の問題は、取得率の低さである。そして取得率の低さが、少子化問題の解消や女性活躍を妨げているとしたら、大きな問題であると言える。制度だけは作ってみたものの、社会や人々の考えがそれに追いついていない状況は悲劇としか言いようがない。その意味で、一般労働者が育休をとりやすくすることに異を唱える人は必ずしも多くはないだろう。

 そこで育児休暇が低い理由を考えなくてはならない。一般には、使用者の側の問題や職場の雰囲気など取得しづらい状況が想像できる。しかしながら、いわゆるサラリーマンではないような事業主や自営業者の方などもまた育児休暇は取りづらい状況にあるのではないか。現行の規定では、育児休業期間の報酬については、支給する、しないは事業主の判断で、多くはいわゆる失業保険で補てんされるようである。したがって、失業保険をかけていないような職種や人はなかなか取りづらいということになる。

 個人的なことで恐縮であるが私も、第4子が誕生の折に育児休業を取得しようとしたが、当時の大学教員は失業保険に加入していなかったため、収入がなくなりますけどそれでよければといわれて断念した記憶がある。もちろん学生を抱えている身としては数か月の休業を取得することは実際には難しく、若い職員が多い大学において職員の育児休暇が取りやすくなるのではないかという浅はかな考えに基づくものであった。言わば試しに申請しようとしただけである。当時は親などの手助けも可能であったことから支障はきたさなかったが、その際に調べかつ考えたことを思い出した。

 講座の担当や大学などの委員会の委員などの、教育職や行政職は代わりの人がいるので制度的には問題はない。しかしながらゼミナールの学生などの目の前にいる学生のことなどを考えると、彼らにとって数か月もやむを得ないかどうかが判然としない理由で指導教員が休暇を取るのは大きなショックを与えることになるだろう(希望的観測ではありますが)。教師としての「職業倫理」(職業生活)と家庭(育児)生活の両立がいかに大変であるかを、10年以上も前のことであるが、実感したものである。僭越ながら、これは社会全体を変革していかないと、いわば文化を変えていかないと難しいなあと思ったものである。一朝一夕にはいかないことは明らかであった。