小黒一正(法政大学経済学部教授)

 1月29日、日本銀行は日本の歴史上初となるマイナス金利を導入し、2月16日からの適用を決めた。デンマークのマイナス金利は▲0.65%、ECBは▲0.3%、スイスは▲0.75%、スウェーデンは▲1.1%であるが、日銀が今回決定したマイナス金利は▲0.1%である。

 日銀が導入を決定した背景には、未曽有のマネタリーベースの拡大にもかかわらず、2%のインフレ目標を達成する見込みが立たず、量的・質的金融緩和の限界が明らかになりつつあったことがあると考えられる。

 日銀が今回導入したマイナス金利の仕組みは、既に導入済みの欧州(スイスやデンマーク等)と同様の階層方式で、民間金融機関が日銀に預ける預金(以下「日銀当座預金」といい、2015年12月末で約250兆円)を3層構造に分割し、各々にプラス金利(0.1%)、ゼロ金利、マイナス金利(▲0.1%)を適用する方式である。

 通常、金利はお金の借り手が貸し手に支払うが、お金の貸し手が借り手に金利を支払う異常な状況が「マイナス金利」である。このため、マイナス金利が▲0.1%、日銀当座預金のうちマイナス金利が適用される範囲が10兆円であれば、日銀に預金を預ける民間金融機関は100億円(=10兆円×0.1%)の金利を日銀に支払う。つまり、日銀は100億円の得をする一方、民間金融機関は100億円の損をするが、日銀が得た最終的な利益は国民の財産として国庫に納付される(日本銀行法第53条)。これを日銀納付金といい、この納付金は国の一般会計の歳入となる。

コストを預金者に転嫁できるのか


 このため、一般政府と日銀を統合した政府では、マイナス金利は民間金融機関に対する一種の課税と同等となる。その際、日銀当座預金残高の約9割は銀行(都市銀行・地方銀行・第二地銀・外国銀行・信託銀行等)であるため、マイナス金利は主に「銀行課税」となる。

 このようにマイナス金利の本質を主に「銀行課税」と見なすと、標準的な課税理論の枠組みで、より深く理解できる。例えば、取引がある財・サービスに物品税を導入する場合、市場が独占的で買い手よりも売り手の方が有利な場合、その税負担は販売価格の引き上げという形で買い手に転嫁される割合が大きい。逆に、市場が競争的で売り手よりも買い手の方が有利な場合、その税負担は売り手に転嫁される割合が大きいが、この売り手に立場の弱い下請業者がいる場合は、この税負担は仕入価格の引き下げという形で下請業者に転嫁できよう。

 マイナス金利の場合も同様で、伝統的な銀行のビジネスモデルは、できる限り低い預金金利で預金を集め、その預金を原資に、できる限り高い貸出金利で融資を行うことである。銀行のケースでは、「買い手=融資先、販売価格=貸出金利」「下請業者=預金者、仕入価格=預金金利」となる。

 その際、3メガバンクが定期預金の一部で預金金利の引き下げを行ったように、預金金利の引き下げや預金の口座維持手数料・ATM手数料の引き上げ等によって預金者に負担の一部を転嫁できても、預金金利をマイナスにすることで預金者に負担を転嫁することは難しい。預金者が預金を引き出し、現金をタンス預金にする可能性があるためである。最悪のケースでは、預金の取り付け騒ぎを誘発し、金融システム不安に発展するリスクもある。このため、既にマイナス金利を実施中の欧州でも、個人向け預金の金利はマイナスになっていない。