大西宏(ビジネスラボ代表取締役)

 もう理屈ではありません。まるでグーグルの自動運転車のようにアルゴリズムで超高速に動く相場は、金融市場のルールを変え、世界の経済を翻弄しはじめています。なにせ金融政策や実体経済とはスピードが違いすぎます。吉と占うのか、凶と占うのかではなく、市場の判断が少しでも凶に傾いた瞬間に、高速取引のアクセルが踏まれ、凶に賭札を貼り続け、実際に凶にしてしまうカジノという感じでしょうか。

 金融政策に頼る国ほど、また為替相場に頼る企業ほど、その影響を大きく受けます。アベノミクスは、大きな声ではいえない円安政策の切り札以上でも以下でもなく、それが効を奏して為替は円安に振れ、大企業の決算を好転させ、株高を誘導しました。
12日、東京外為市場で対ドル、対ユーロで円高を示す為替ボード(AP)
 アベノミクスは世の中のマインドを好転させたものの、実態経済にはほとんど影響がないままに、ついにそのメカニズムが逆回転しはじめています。もう黒田バズーカも効きません。円安効果を生むはずだと放ったマイナス金利政策もあざ笑うように円高に動ききました。

 いよいよアベノミクスどころか安倍内閣も詰みという感じになってきました。野党民主党の混迷とボタンのかけ違いで救われているだけに見えます。

 それにしても年金機構の運用は大丈夫でしょうか。F1カーがせめぎあう市場を農耕機で勝負しているようなものなので、相場が揺れ動き始めても、対応しようがなく、嵐の去るのを待つしかないのでしょう。

 中国経済の成長鈍化、原油価格の暴落の余波で、市場がまるでハンドルが効かないアイスバーンのように変わり、滑るにまかせるしかない状況に世界の経済が陥ってしまったように見えます。

 しかし、それはあくまで金融経済のお話です。もう金融経済と実体経済はとっくの昔に分離してしまっています。一部の人を除けば、この間の金融緩和の恩恵がなかったことは身に沁みていらっしゃると思いますが、それぞれで景色は違って見えてきます。

 為替の変動で大企業の決算が大きく変わるとしても、それで企業の本質的な競争力は変わらないので、高い付加価値を生み出す事業でも持っていなければ、為替相場の変動で、決算が天国に行ったり、地獄に落ちたりを繰り返すだけです。事業に、高い成長力がなければ、利益がでても投資も進まず、内部留保として積みあがるだけでしょう。

 そうでない普通の企業や家計にとっては、原材料費やエネルギーコストの上昇の北風が吹いていましたが、原油価格の暴落でガソリン価格や灯油価格もずいぶん落ち、一息というところでしょうか。円安の恩恵は外国からの旅行者のインバウンド消費ぐらいで、国内経済、そしてそれを支えるサービス産業や中小企業にとっては、ほとんど関係がありません。

 世の中は、景気後退に向かうのでしょうが、日本はまだ耐性があるほうかもしれません。長い間経済の停滞のなかで生きてきたのですから。

 金融の信用不安でも起こさないかぎり、実体経済に根ざしているのなら、金融経済の変動よりも、時代の大きなトレンド変化にどう対応するのか、より付加価値の高いビジネスをどう実現するのかのほうがはるかに重要ではないでしょうか。ここはお互い、金融経済を覆う嵐に目が釘付けになることだけは避けたいところです。

 短期的なリスクはいろいろあるのでしょうが、最大のリスクは抽象的ですが「動かない」ことかもしれません。動かなければ、家の外はどんな向きに、どんな強さで風が吹いているのかがわかりません。

 しかも大きな変化がこようとしています。株安や円高よりも、もっと衝撃が大きいと思うのは、デジタル革命の変化速度が一段と加速しはじめてきていることです。高速運転の取引で目まぐるしく変わる金融経済も、デジタル革命の申し子みたいなものです。

 IOT(もののインターネット)も、液晶画面をドアに貼り付けた冷蔵庫などのようなIOT家電なら、笑って済ませることもできますが、ビジネスの常識、あるいはビジネスの仕組みも大きく変え、これまでのビジネスを飲み込んでしまいかねないのです。

 システムの提供を生業にしていると、開発高速化の流れやICT環境の変化の凄まじさは、恐ろしいほど身に沁みて感じさせられます。それについていくのも大変ですが、これも積極的にチャレンジしていないとわからないことです。

 おそらくそういった時代の変化を商機と受け止め、試行錯誤を繰り返すなかで、その正体を見極めようとするマインドを失ってはいけないと自らを叱咤激励する毎日です。