鄭大均(首都大学東京特任教授)

 『なぜ私は韓国に勝てたか』(産経新聞出版)は韓国の「いじめ」に屈しなかった日本人ジャーナリストの記録である。

 国際関係を「いじめ」と形容するのは少し変わっているかもしれない。しかし60年代から70年代にかけて、日本の進歩派たちが北朝鮮にある本物の独裁政治には目を閉じたまま、朴正煕政権を「軍事独裁政権」と糾弾した反韓キャンペーンは国際社会における「いじめ」の例であり、そこには、相手方に対する道徳的蔑視の態度があり、弄(もてあそ)ぶ態度があった。

 そんな日韓関係が今や反転、あの頃、日本の進歩派たちのメディアの誹謗中傷にさらされていた大統領の娘が今日、日本いじめの要(かなめ)にいるというのは歴史の大いなる皮肉である。周知のように、90年代以後、韓国は歴史認識のテーマで日本いじめを開始。2000年代になると、政府とメディアと市民運動が三位一体となって反日キャンペーンを展開するが、ここにも相手方に対する道徳的蔑視の態度があり、弄ぶ態度がある。

 この時期は韓国が経済大国になった時期であるとともに、日本が経済的に落ち目になった時期であり、韓国はいつになく自信満々だった。そして近年、いじめの主要な標的となっているのは安倍晋三首相であり、彼には「極右」や「軍国主義者」という烙印が押され、その道徳的劣等性は国内のみならず国外でも語られるのである。

 だが、安倍晋三は憎くても、韓国にいるわけではないから直接打撃を加えることはできない。しかし、ここには便利な代替物があって、ソウルに支局をもつ産経新聞は、「慰安婦強制連行説」にもっとも従順ではないメディアであり、「嫌韓メディア」であるともされる。今回、狙われたのはそのソウル支局長をつとめて3年ほどになる加藤達也氏であった。
加藤達也前支局長の判決を報じる地元テレビ=2015年12月17日、韓国・ソウル駅(大西正純撮影)
 加藤氏は2014年4月16日、自社のインターネットサイトにコラムを出稿。300人以上の犠牲者を出したあのフェリー転覆事故直後、韓国の大統領がどこでなにをしていたのかについて、韓国紙「朝鮮日報」の記事等を引用、レポートを作成したのだが、それに大統領府が「民事・刑事上の責任を問う」として脅しをかけ、それに呼応するかのように、右翼団体が告発状を提出・受理され、3回の事情聴取を経て、やがて韓国検察は、大統領等の名誉を傷つけたとして起訴したのである。

 だが、この程度のレポートで、国家権力が外国人記者を訴追するというのは異常であり非常識ではないか。引用元になった「朝鮮日報」記者にはお咎(とが)めなしというのもいかにも公平さに欠ける。にもかかわらず、加藤氏が狙われたのはなぜなのか。